素直になりたくて~メイクに恋してあなたを愛す~

あっという間に時間は経過し金曜日へとなっていた。


今日は橘部長とご飯。
緊張する気持ちを抑えながら、キーボードをたたく。

就業時間まで残り5分を切っていた。
残業をしてはいけない“ノー残業デイ”の為、もう約束の時まではすぐそこまで迫っている事を表している。


時計の秒針の音が嫌に大きく聞こえる。
そして、それと同じくらいに私の鼓動が大きく聞こえる。


「泰東?就業時間はもう過ぎたぞ」

「へ?」


低い声にビックリして立ち上がろうとした私は、慌てすぎたのか椅子ごと後ろにひっくり返ってしまった。
体に痛みが一瞬だけ走ったが、どうもないみたいだ。
立ち上がろうとすればスッと、私の目の前に手が差し出された。
上を見れば呆れたような顔つきの橘部長がいた。


「相変わらずだな、お前は」


タメ息交じりの言葉。
でもそれは冷たいものではなくて、温かい言葉に聞こえた。


「えっと……」


差し出された手をどうすればいいのか迷っていれば、橘部長は私の手を無理やり引っ張り立ち上がらさせてくれた。
勢いがついた体は、そのまま橘部長の体へと寄りかかっていた。


「……」

「……」


無言の状態のまま私たちはしばらくじっとしていた。

確か前にもこんな事があった様な……。
私の頭に浮かぶのは、開発室での出来事だった。


今日と同じように、私は椅子から転げ落ちた。
前は、まだ橘部長の事を良く知らなかったし、その時は化粧品をばら撒いてしまったという事もあって、口紅の事を心配しているのだとばかり思っていた。
そして、口紅を橘部長の手にのせたっけ?

そしたら呆れられて、今みたいに無理やり手を引っ張って起こしてくれたな。