「夏香、昼飯食いに行こうぜ?」

「ごめん、これ終わらせたいからパスするね」

「……了解。無理すんなよ」

「ありがとう」



大樹の寂しそうな顔を見送って私は仕事を再開する。
キーボードに手を滑らせ勢いよく打ち込んでいく。


それから数分後


「ん……」


カタカタと鳴り響くタイピング音がすっと消えると同時に私が伸びをした声が聞こえた。
仕事を終えミスがないかを確認した私は、パソコンの電源を落とし立ち上がった。


「ご飯……食べなきゃ」



時間も時間だし……あそこしかないか。
あそこ、というのはマコさんのお店。


だけど少し気が重いんだ。
だって……。



「橘?注文しないのかい」

「まだいい」



お店の扉を開ければ、橘部長とマコさんの姿が目に映る。


あれから橘部長は毎日のようにこのお店に来るようになった、
理由は分からない。
会社から近いから?このお店が安いから?料理がおいしいから?


それとも……。
マコさんがいるから?



「夏香いらっしゃい!!」

「こんにちはマコさん」



私に気が付いたようにマコさんは笑顔を浮かべてこっちに来てくれる。
その声で現実に引き戻された私は、橘部長とは離れた席に座ろうと鞄を置いた時。



「泰東、こっちへ来い」



決まって橘部長は私の事を呼ぶんだ。
そして同じ席へとつく事になる。


嬉しいけど。
本当は馬鹿みたいに騒ぎたいくらい嬉しい。


だけど、マコさんの寂しそうな顔を見ると、マコさんの気持ちを考えると……。
素直になれない私がいるんだ。