「……そうだな」



別に期待していた訳ではない。
橘部長は初めから私の事なんて女として意識していないことくらい分かっていた。


だけど……。
実際に思い知らされると少し……いや。
かなり堪える。



「だろ?
2人は付き合っていないって言うけど、やっぱり付き合って……」

「……お金はここに置いておきますね。
お先に失礼します」

「夏香!?」


私はその場にいることが耐えられなくなった。
そして、お金を机に置くと、逃げるように店から出て行った。


後ろから私を呼ぶマコさんの声が聞こえてきたけど、それに応えることなく私は走った。



『……そうだな』。
橘部長の低い声が頭から離れない。



「っ……橘部長……」



私の小さな声は誰にも届かず小さく消えた。
頬につたる涙は、私の胸を苦しめ、私の心を痛めつけた。