「何でここにいるんですか水沢さん」

「ここは俺の行きつけなんで。橘さんこそどうしてここに?」

「泰東が教えてくれてな」

「あら……夏香ちゃん自分で火種をまいちゃったんだ」



橘部長の言葉を聞き苦笑いをする翔也さん。
何の事か分からない橘部長は彼の言葉にピクリと反応をした。



「何の事ですか」

「別に何でもありませんよ?俺と夏香ちゃんの2人の秘密何で」



『ねっ?』と意味深な笑みを浮かべる翔也さんに、戸惑いながらも頷けば満足そうに翔也さんは笑っていた。
橘部長はと言うと、もう十分に怖い顔に拍車がかかっていた。
子供なら一発で泣いてしまうだろう、心で苦笑いを浮かべていれば、キッチンからマコさんが戻ってきた。



「橘!戻って来たなら声を掛けてくれたっていいじゃないか!」

「……すまない」

「……何だい、橘も水沢も怖い顔して?
仲良くしなきゃ駄目だろ?」



マコさんの声に2人は諦めた様にお互いから顔を逸らしていた。


……凄いなマコさんは。
私なんか声すら掛けられなかったのに……。


落ち込んでいれば翔也さんが再び私の頭を撫でてくれる。



「暗い顔しないの」

「……はい、ありがとうございます」

「そうそう、笑顔笑顔」



翔也さんに励まされて、無理やり笑顔を作れば、翔也さんは飛び切りの笑顔を私にくれた。


その光景を見ていたマコさんがニヤリと怪しい笑みを浮かべたのが横目で見えた。



「本当にお似合いだねあの2人は!
橘もそう思うだろ?」



マコさんの言葉に胸が痛んだ。
よりにもよって橘部長に言わなくたって、痛む胸がバレない様に必死に取り繕っていれば橘部長の低い声が私の胸に突き刺さった。