素直になりたくて~メイクに恋してあなたを愛す~

「頭では分かっています。そういう戦略で物を売る事は悪い事ではない。
むしろ……当たり前の事だと思います……どの企業もやっていますし」



有名な人で人気な人を味方につければ、その商品も自然に注目される。
そう言った方法は実際にある。


だけど、そんなやり方で商品が売れたとしても……。
私はちっとも嬉しくない。



「ただ……嫌なんです。
商品の本当の魅力がお客様に伝わる前に消えてしまう、その事が……」



それ以上の言葉は見つからなかった。
化粧品の事が好き。
だからこそ……その想いがお客様に伝えきる事が出来ない自分が悔しい。



「……泰東の気持ちはよく分かった」

「すみません……お時間を取らせてしまって」



『いや』と軽く首を振る橘部長は、何かを考える様に黙り込んでしまった。
そして、決意したかの様に私を見据える。



「実の所、俺も泰東と同じ意見だ」

「え……?」



予想してもいなかった言葉に私は口を開けたまま固まってしまった。
それを気にも留めず、橘部長はゆっくりと話しだす。



「利益ばかり追求する会社のやり方は俺も反対だ。
そんな商品が消費者に届けられると思うと虫唾が走る」

「……」



橘部長は悔しそうに顔を顰めた。
その顔を見るのが辛くなったが、目を背けてはいけない。
そう……直感で思った。



「だがな……ここで俺たちが止まる事で何が解決する?」

「……え……?」

「このまままではあの会社は何も変わらない。
利益だけを求め続け、消費者の心を弄び続けるだろう」

「それは……」




否定は出来ない、私もそうだと思うから。




「俺は……そんな会社を変えたくて商品企画開発部に来たんだ」



橘部長の言葉に、私の脳裏にはある物が浮かぶ。
前に資料室で見た1枚の企画書だ。
昔、橘部長が商品企画開発部にいた時に作ったもの。


そして、まさに私が目指そうとしている物と同じだった。
化粧品を想う気持ちは誰にも負けない。
だけど、その月日は橘部長の方がずっと長いのかもしれない。