「それで……だな……」




言いにくそうに橘部長は顔を歪めた。


ついに来てしまったのだろうか?
ゴクッと唾を飲み込み橘部長の言葉を待った。




「今度……一緒にディナーでもどうだ?
……お礼になるかは分からないが……嫌なら断ってくれ」




予想外の展開に私の頭はもはや使い物にはならなかった。
橘部長とディナー……。
願ってもない事だが、驚き過ぎて何も言えない。



「泰東?無理なら……」

「無理なんかじゃないです!!
ぜひ……ご一緒したいです!!」

「泰東……ここは電車の中だ。
あまり大きな声を出すな」

「あっ……」



今頃嬉しさが溢れ出したのか自分で思っている以上の声が出たみたいだ。
恥ずかしい気持ちになりながら下を俯く。



「……まったく……。
相変わらずだなお前は……」

「すみません……」

「まぁ……そんなお前も……」




橘部長が何かを言いかけた時、タイミングよく私たちが降りる駅へと着いてしまった。
そのせいで、言葉の続きを聞くことは出来なかった。