「た……橘部長……?」

「ありがとう」




低い声が耳元で響く。
でもその声は嫌なものではなく、むしろ……。


心地の良いものだった。




「……いきなり悪かったな」

「い……いえ……」



体に感じた温もりが私から消える。
その時に初めて分かった。


橘部長に抱きしめられていたんだって。

そう意識しただけで私の顔は熱くなる。




「泰東……泣いたのか?
目が凄く赤い」

「あっ……これは……」



抱きしめられた事に動揺した私は顔を隠すことをすっかり忘れていた。

心配そうに私を見る橘部長に胸が痛くなる。
いい訳を考えようとしても頭が上手く回らない。



「……お前に嘘をつかせるなんて……俺は何をやっているんだろうな……」

「え?」

「すまなかった」

「謝らないでください。
私……橘部長のお役には立てなかったかもしれないけど……」

「泰東?」




私は言葉に詰まる。
何て言えばいいかなんて分からなかった。


でも、心配そうに私を見る橘部長を見て思ったんだ。



「私は、あなたと一緒にいられて幸せです」

「……っ……」

「あっ……その……。
橘部長みたいな凄い方と一緒にお仕事で来てって意味です」



橘部長の戸惑った顔を見たら一気に怖くなった。
私の気持ちはバレてはいけない。


そう思っていたのに……。
なぜ私は……こんな事を言ってしまったのだろう。