素直になりたくて～メイクに恋してあなたを愛す～

「すみません！！
私……本当は橘部長の彼女ではないんです！！」



手を床につけて勢いよく頭を下げる。

いわゆる土下座といわれるものをすれば焦ったような声が上から降ってくる。



「な……夏香ちゃん！
頭を上げてちょうだい！！」

「そんな事しないでくれ！！」



橘部長のご両親は私の方に駆け寄って来て、優しく私の顔を上げさせた。


私の目に映ったのは
さっきまでと変わらず優しい笑みで私を見つめている橘部長のご両親の姿だった。



「説明してくれる？
……彼女じゃないって……？」



お母さんの声は少し戸惑っている様に聞こえた。
でもそれは、決して私を攻め立てるものではなかった。



「私は……橘部長のただの部下です。
最近……橘部長が私のいる部署に来られて一緒に働かせて貰えるようになりました」

「そうだったの……。
でも何で彼女のフリなんか……」

「母さん、慎吾の事だ。
見合いをしたくなくて、夏香ちゃんに彼女役を頼んだんだろう」



お父さんの言葉は当たりすぎていた。
それでも私は何も言えなくて黙って頭を下げる。



「私がこんな事を言える立場ではない事は分かっております。
でも言わせて下さい！
橘部長にお見合いさせないでください！」

「夏香ちゃん……」



頭を下げているから、お母さんとお父さんの表情は見えない。
もしかしたら物凄く怒っているかもしれない。
呆れているかもしれない。


でも私は……。
頭を上げることなく口を開き続ける。