素直になりたくて~メイクに恋してあなたを愛す~

「本当に素直じゃないわね?」

「もう静かにしてくれ……」





疲れたようにタメ息をつきながら頭を抱える橘部長になんて声をかけていいか分からなかった。
私は口を閉じたまま橘部長の顔を見ていた。




その時、バイブ音が部屋にと鳴り響いた。
音が聞こえてくる方に顔を向ければそこには誰かの携帯がある。




「すまない、俺だ。
……泰東、少しの間頼む」

「え?」

「すぐ戻ってくる」




早口にそういうと橘部長は立ち上がり、部屋の外へ出て行ってしまった。


部屋には、私と橘部長のご両親だけが残る。



……この状況をどうにかできるほど私の人生経験は豊富ではない。
背中に嫌な汗がつたるのを感じながら私はその場で固まっていた。





「も~相変わらずなんだから」

「絶対に仕事の電話だろう……仕事馬鹿はアイツのためにある言葉だな!!」




微笑ましい顔で話し合うご両親。



「夏香ちゃんも大変でしょ?あんなに仕事ばっかりじゃ……」



困ったように笑うお母さん。
その顔は少し悲しそうに見えた。




「……お仕事をしている時の橘部長は……凄く格好良いですよ。
心からいいものをつくろうって気持ちが伝わってきて……」



一見、厳しく見えるけど……それは化粧品に対する想いだって……私は知っている。
いいものが出来た時の橘部長の笑顔は……凄く素敵だ。




「その背中を見ていると……私も頑張れるんです」



これからも橘部長と一緒に化粧品を作りたい。