素直になりたくて~メイクに恋してあなたを愛す~

「……泰東、緊張しているのか?」




橘部長は私の隣に来ると、耳元でそっと囁いた。




「もう少しだ、頑張ってくれ」




その声は橘部長のものとは思えないほど優しかった。
自然と彼の方を向けばすぐ近くに顔があるのに気が付いた。



いきなりの事で驚いた私はすぐに橘部長から顔を逸らした。




「だ……大丈夫です。
すみません……橘部長、ご心配お掛けしました」

「……いや」




私の勘違いかもしれない。
だけど……私には橘部長の声が少しだけ悲しそうに聞こえた。


そんな訳ない。
だって橘部長が悲しむ必要なんてどこにも無いもの。



高鳴る心臓の音が聞こえない様に必死に落ち着かせようと笑顔を浮かべる。



そんな時、また私の心臓を高鳴らせる言葉が耳に届いた。
でも、今度は違う意味での高鳴りだ。




「いやだわー!!恋人同士なのに苗字で呼んだりして!!
夏香ちゃんも“橘部長”なんて硬いわよ!?」

「お前ら本当に付き合ってるのかー?」




お母さんもお父さんも……私と橘部長を見ながら笑っている。



きっと深い意味はないと思う。
ただ思ったから口に出しただけだろう。


だけど私からしたら……付き合っていないことがバレたら……そう思うだけで怖くなる。





「いい加減にしてくれ」




私が1人で固まっていれば低い声が部屋へと響き渡った。



誰の声かなんて確認しなくても分かる。
この中でこんなに低い声が出せるのはあの人しかいないだろう。