素直になりたくて~メイクに恋してあなたを愛す~

「こんな可愛い子が慎吾の彼女なんて……信じられないわ!!」

「やるな~慎吾」

「……やめてくれ。彼女が驚いている」




嬉しそうに笑顔を浮かべるご両親に対し、無表情を貫く橘部長。

妙な光景を目の当たりにして、私は笑顔を作るのが精いっぱいだった。





「慎吾ったら照れちゃって~」

「別に照れてなんかいない」




橘部長のお母さんと橘部長の表情は正反対。
だけど……どことなく穏やかな空気が流れているのが分かる。


やっぱり親子なんだな……。



2人を見ていると自然に頬が緩むのを感じた。




「すまないな?
こんな家族で」

「……素敵なご家族ですね」





同じように2人を見ていたお父さんが私を見ながら笑顔を浮かべてくれる。
その顔は、橘部長の笑顔と重なって見えた。





「素敵だなんて!!
そうだ!まだ名前を聞いてなかったね」

「あっ!申し遅れました!
泰東 夏香っていいます」




お父さんに自己紹介をすれば、さっきまで橘部長と話していたお母さんは私の方を向いた。




「夏香ちゃんっていうのね!!
私……女の子が生まれたら“なつか”って付けたかったのよ~」

「そうなんですか!?」

「えぇ!!まぁ……本当の娘みたいだわ~」




お母さんは私の手を握り優しい笑顔を浮かべた。




「あなたに出逢えて嬉しいわ!」




お母さんの言葉に胸が痛むのが分かった。


私は橘部長の彼女なんかじゃない。
それなのに嘘をついてここにいる事が今になって胸を痛めつける。




こんなにいい人たちを騙すなんて……。




「夏香ちゃん?」

「どうしたんだ?」




お母さんとお父さんは心配そうに私を見つめていた。





「……いえ、何でもないです!」




笑顔を浮かべ私はご両親から少しだけ目を逸らした。