素直になりたくて~メイクに恋してあなたを愛す~

「皆さんからも……自分自身からも逃げてきました」

「どう言う事だよ……」




大樹は軽く微笑みながら私を見ている。
その口元は震えていて……無理やり笑顔を作っている事が伝わってくる。




「私ね……今までずっと怖かったんだ。
自分の気持ちを表に出すって事が」

「は……?」




皆はざわざわと騒ぎ出しながらも視線だけはこっちに向いている。


言っている意味が分からないかもしれない。
私だって自分が何を言っているかよく分からない。
でも……この気持ちだけは伝えなきゃいけない気がする。




「自分の気持ちを言って職場の空気を壊すのが怖かった。
先輩たちの視線や陰口とか……本当は凄く辛かったし苦しかった!
でも……それに立ち向かうことが出来なかった自分が情けなくて悔しかった」




もうこんな悔しい想いはしたくないの。
自分の気持ちを押し閉じ込める事によって得た物なんて何の意味もないって気付いたから。




「だから……もう逃げるのはやめます」




私は目を閉じゆっくりと深呼吸をする。
目に浮かぶのは優しい顔で微笑む橘部長の顔。



あぁ……あなたはどこまで私を支えてくれるんですか?
その顔を見たら……もう怖くない。