素直になりたくて~メイクに恋してあなたを愛す~

何で……。
何で今日来たばかりの人にあそこまで言われなければいけないの……?
私に才能がないのは自分だって分かってる。
だけど……作る権利すら私にはないの?


今までの部長は、なんだかんだ言って資料を真面目に見てくれたしアドバイスだってくれた。
1度だって直さなくていいなんて言ったことなんかない。
たった1度私の資料を見ただけで……何が分かるの……。


「夏香」


自分のデスクで頭を抱えていれば、横から聞きなれた声が聞こえる。
この優しい声は大樹だ。
私はグッと口角をあげて大樹の方に顔を向ける。


「なーに大樹?」


彼に心配を掛ける訳にはいかない。
優しい大樹の事だ、私の今の気持ちを知ったら親身に話を聞いてくれるだろうし、一緒になって怒ってくれるだろう。


だけどそれは申し訳なさすぎる。
人の愚痴ほどつまらないものはないと思うから。
だから彼には私の気持ちはバレてはいけない。


「ばーか。無理してんじゃねぇよ」


大樹の声と共にフワッと頭に手がのせられる。
大樹の温もりが優しさがじわじわ伝わってきて気を抜けば涙が出てきそうになる。
だけどこんな所で泣く訳にもいかず無理やり笑顔を作ったまま大樹の手を優しくどける。


「髪の毛ボサボサになっちゃうでしょ!
私は大丈夫だから、ねっ!!」


私が笑えば大樹は不機嫌そうに顔をしかめている。



「仕事終わったら飲みに行くぞ」

「え……?ちょっ……!!」


私が言葉を発する前に大樹はオフィスから出て行ってしまった。


もう……無視しなくてもいいじゃん。
でも私は知ってる。
これが彼なりの優しさだって。