素直になりたくて~メイクに恋してあなたを愛す~

「泣いている暇なんかない。
資料は出来たのか?」

「はい、後は口紅が出来ないとどうしようもならないので」




私が苦笑いで言えば橘部長は『そうか』とだけ返事をして再び口紅を作っていた。


私も橘部長の隣で作業を始める。
なんとなく頭の中に口紅の分量とかは浮かんでくるが、流石に全部は覚えていない。

無言の作業がしばらく続いた。





「泰東」

「はい?」




その静かな空間を破ったのは橘部長だった。
正直に言って意外だった。
このまま沈黙のまま終わると思っていたから。





「何故……そんなに冷静でいられるんだ?」

「え……?」




橘部長の言っている意味が分からなかった。
私、結構焦っているんだけどな……。
顔に出ていないかな?




「冷静なんかじゃありませんよ?
時間もないですし……間に合うめども立たないですもん」

「そうじゃない」




私が答えれば橘部長の凛々しい声が開発室に放たれる。
思わず顔を橘部長の方に向ければ橘部長の瞳は凄く冷たいものだった。
まさに怒りを指しているその瞳。