素直になりたくて~メイクに恋してあなたを愛す~

「……これでどうだ……」




開発室には明かりがついているし声も聞こえる。
橘部長ずっとここにいたのかな?



私は静かに開発室に入って橘部長の方に向かう。




「はぁ……また失敗か……」

「橘部長?」

「た……泰東」




橘部長は驚いたのか声が少しいつもと違った。
でも顔はいつもの無表情。




「何やってるんですか?」

「あ……あぁ。
残念ながら口紅のサンプルも壊されていた。
だから……」




口紅が壊されていた。
その事実が胸に突き刺さる。


心のどこかで予想はしていたけど……。
でも受け止めたくはなかった。



橘部長は気まずそうに私から顔を逸らしていた。
もしかしてずっと1人でここで口紅を作り直してくれていたの……?
何の資料もない状態で……。




「ありがとう……ございます……」




私は涙を抑えるのが必死だった。
橘部長にたくさん迷惑かけているのは分かっている。
でも……橘部長の優しさが心に沁みって……。
凄く嬉しい……。