片腕を突き出したまま、
俯きがちに目線を下にしていた“そいつ”は
『っ……』
何かを払うように手を振って
『おい…』
ゆっくりとその手を下ろした。
俯いていたせいで黒髪に隠れていた目と
目が合った。
そのまま顔を動かして真正面から私を見据える“そいつ”
『っ…!!』
さっきまで向かってきていた敵軍は
みんな“そいつ”の後ろで片膝をついて
下を向いている。
「…久しぶり、鈴。」
どこか悲しそうな微笑を浮かべて
私の名を呼んだ
“そいつ”
北側から聞こえてくる戦闘音が
水の中にいるかのように遠く感じた

