悲しい。苦しい。
あの妖の、人間だった時の記憶。
あの妖は、何も悪くなかったのに。
傷付けられた、被害者のはずなのに。
「何でそんなことわかったの?」
光輝君がうつむいたまま言った
「...稗陣錬...
妖を調伏した最後の術...
あの時の最後の光で、
あの妖の、人間の時の記憶が見えたの。
それで...最後の、最後...
残り一つの光が消える時...」
っ....
「ありがとうって...言われたの...
これで、
独りじゃないって...」
私の心にも、
あの妖の悲しみが痛いほどわかった。
悲しかっただろうな...ってことは。
ただ、それを利用して
ヒロインを演じるくらいには…
私は呑み込まれるわけにはいかないと
強く感じているんだ。
話しながらも
寮に向かって歩いていたから、
気がつくともう寮に着いていた。

