鈴が咲く【前編】



悲しい。苦しい。
あの妖の、人間だった時の記憶。




あの妖は、何も悪くなかったのに。

傷付けられた、被害者のはずなのに。


「何でそんなことわかったの?」


光輝君がうつむいたまま言った


「...稗陣錬...
妖を調伏した最後の術...

あの時の最後の光で、
あの妖の、人間の時の記憶が見えたの。

それで...最後の、最後...
残り一つの光が消える時...」


っ....


「ありがとうって...言われたの...

これで、
独りじゃないって...」


私の心にも、
あの妖の悲しみが痛いほどわかった。

悲しかっただろうな...ってことは。







ただ、それを利用して
ヒロインを演じるくらいには…
私は呑み込まれるわけにはいかないと
強く感じているんだ。





話しながらも
寮に向かって歩いていたから、
気がつくともう寮に着いていた。