「月が綺麗…」

雲一つない夜の月は綺麗だけど、なんだか哀しい…。

もう何杯目かもわからない梅酒のロックは、彼がよく好んでいたもの。

グラスに浮かぶ氷山の一角は、カランと軽快に音を奏でる。

なにかを忘れるかのように、涙と一緒にそれを飲み干した。


三日前まで彼がいたこの部屋は、私ひとりじゃ少し広い。

お茶碗も、マグカップも、歯ブラシも、突然いなくなった片割れを探しているよう…。

まるで私みたいに…。

酔った勢いにまかせて、衝動的に電話を掛ける。
消しても消しても消しきれない、彼の番号。

コール音が回を重ねるごとに緊張感がはしる。

「…もしもし?」

少し掠れた彼の声。
ついこの間まで隣で聴いていた声が、たまらなく愛おしい。

「…あなたの好きな美味しい梅酒があるの。今から飲まない?」