朝を告げるべく、窓から差し込む光の粒子が、窓辺のアジサイを照らす。
 水をあげたばかりのアジサイについた雫たちが、金色に輝いている。まるで、泣いているみたいだ。と思った。

 目を瞑り、深呼吸を繰り返す。大丈夫、大丈夫よ。私は今日もいつものまま。

 隣で眠る夫。かっこいいとか、たくましいよりも、可愛いという形容詞が似合っている。

 甘え上手な夫。彼とは、正反対の夫。その寝顔を見ながら、私は体中に彼の存在をさがす。

 長くて骨ばった指や、緩やかな弧を描く、薄い唇。額に、首筋に、太股の裏に。時に優しく、時に激しく。波たつ海のように気まぐれに、それは時折私を満たしてゆく。

 夫に満足していないという訳ではない。彼を捨てたのは私自身なのだから、彼に会いに行くつもりも、どうこうなりたいと言う気持ちも私には持つ権利がない。

 けれど、彼は時折こうして頭の中に現れては、私を蜂蜜のように甘い行為で犯して去ってゆく。

 夫がいなければ寂しくて堪らないくせに、彼が脳内に現れるたび、喜びを感じずにはいられない。

 大丈夫、大丈夫。私はいつものまま。

 夫を起こさないようにベッドを抜け、窓辺のアジサイに触れる。