「あっ、飛行機」

 それを見て、あたしはすかさずシャッターを切るかのように、指で長方形を作る。

 どうしたの、とでも言うように、彼もベランダに出てきて隣に並んだ。
 そしてゴツいけど細長く繊細な指先で、あたしの長い髪に触れる。
 緩やかに流れる、幸せの時間。

 思わず笑みがこぼれてしまう。

「飛行機をね、百回指で囲むと願いが叶うんだって」
 あたしの願いは、もちろん彼と結婚すること。
「ふ~ん、でもさ」

 興味なさげな彼に少しムッとする。けれど彼は構わず続けた。

「願いならもう叶ったんじゃない?」
「え?」

 キョトンとするあたしの左手の薬指にはめられてゆく、小さなダイヤの指輪。

「結婚しよう?」

 空には、長い長いひこうき雲が、これから訪れる幸せな未来を描いていた。