結局、協会では、結婚話どころではなく、先輩は不機嫌そうに、帰って行った。

私はというと、執事である結羽に愚痴って夜を明かした。

結羽は、そんな私の話を、快く聞いてくれた。


そして、学校です。

「桜ちゃん、お昼一緒に食べない?」

また来たよ。

最近、先輩は、こうして私をお昼に誘ってくる。

前は、顔も知らなかったのに…。

「先輩。すみません、私友達と食べるので。先輩とは、食べれません。」

「えー。そっか…。」

残念そうに、先輩は帰って行った。


ちゃんと、その後の授業が受ける気になれず、私は保健室で寝ていた。


………………それから3時間後。

いわゆる、放課後。


「お嬢様、お目覚めください。」


ん~?誰だろう。

あれ?何か、体がすごく軽い……


「お嬢様!」

「きゃっ!え?え?………結羽?」

なぜか、私は、結羽に女の子の憧れのひとつ、お姫様だっこをされていた。

「やっと、お目覚めになりましたね。」

「結羽!何で、私はあなたに、お…お姫様だっこをされているの……。」

「え?ああ。お嬢様が中々お目覚めくださらないので、仕方なく。」

「どこが、仕方なくよ‼もっと他に、方法があったでしょ!」

「お嬢様、大声は、はしたないです。」

「文句しか、言えないの?理由をちゃん…「お嬢様が、お目覚めくださらないので、あと、今日は父上様がお帰りになると。」

こいつ…。シメたろか?

っていうか…

「父様が、お帰りになるですって!!!!!早く言いなさいよ‼」

「ですから、こうしてお姫様だっこたるものを。」

「そこ、関係ないから‼」

頭大丈夫か?こいつ。

「車は?」

そういや、何で、お姫様だっこする必要もないはずなのに、してたんだ?この執事。

「ああ。実は、そのお父上様をお迎えに上がっているため、すべての車は、空港に…」

はぁ?何台あると思ってんのよ。うちの車。全部って、あほか。

「で?まさか、このまま、私を送るつもりではないわよね?」

「いえ。このまま、お連れするつもり……「ばか、言わないでよ‼そんなの、いい見ものじゃない!」

「……お嬢様、すでに、いい見ものです。」

「え?」

よく見れば、そこは街並みの、交差点だ。

「大丈夫です。お嬢様、すでに駅は過ぎてます。あとは、30分ほどで、家に着きますので、ご辛抱を。」

そういう問題じゃないだろう。

これは、あれか?学校から、駅→電車→駅→今いる道。まで、ずっとお姫様だっこをされていた。


ということか!?

なんたる、羞恥プレイ。非道だ‼

「お嬢様、そんなに恥ずかしがらずとも、カメラなどで、撮っていた者はおりませんので。」

「そういうもんか?」

「はい。カメラなどでとっている場合は、私の人差し指が、飛びました。」

「はぁ‼なにしてんの!って、人差し指って何よ‼まさか、目潰し!?」

「いえいえ、そんなに強くしてませんので。」

「でも、やったんだよね!?そこを気にして‼」

お願いだから、誰かこいつの頭治して。

「お嬢様のお身体の為です。」

……。

「それを言われたら、私がなにも言えないこと、分かってるんでしょ。」

「…そんな事ないですよ。」

「うそ。」

「本当です。」

「じゃあ、どうしてこのタイミングで、戻ってきたの?」


「…………。」

ほら、嘘つき。

私を、まだ、想っているの?

駄目だよ。もう、掻き回されない。

もう、誰も好きにならない。

「お嬢様。私は、お嬢様のことが、誰よりも、何よりも大切です。」

「…そんな事言って、私の気をひこうとしても無駄よ。」

「いいえ。そうではございません。私にとって、お嬢様は光です。」

「え?光?」

「はい。永遠の、光です。ならば、この命に変えても、お嬢様をお守りする。それこそが、私の努めです。」

結羽…そんな事を考えていたの?

ずっと?もしかして、あのときから?

「でも……でも、あのとき、誰も私たちのことを認めてくれなかった‼」

「お嬢様……。」

そうよ。あのとき、あの瞬間私たちは、引き剥がされた。

運命に…逆らえなかった。

だから、今ある縁談にも、興味なんて一ミリたりともないわ。

先輩には悪いけど、好きなんて思ったこともない。

むしろ、顔すら知らなかったわ。

「お嬢様。ですが、お嬢様はご結婚される。きっと、そのために私を呼んだんです。」

は?今なんて……。

「お嬢様をみて、私との繋がりがもうないか、確かめているのでしょう。」

どうして?

「……どうして、何で‼何であの人は、私を嫌うの!?私の嫌がることばかりして、何が、そんなに楽しいのよ!?」

「お嬢様、落ち着いてください!お身体が……。」

「身体なんて、どうでもいい。私は、生きてる意味が、今も分からない。」

「……………。本気でおっしゃっておりますか?本気で、ご自分が必要ないと?」

「だったらなんなのよ‼「ふざけないでください!何度言ったら分かるんです!貴方は、…貴方は何度も、私という人間を救ってくれたじゃありませんか。」

え…救った?

「貴方は、私と初めて出逢った日のこと、覚えていますか?」

初めて出逢った日?

「私は、今でも、よく覚えています。あのとき、私の時間は、動いたんです。貴方が、動かしてくれたんです。」

「え?どういうこと?」

「……私は、貴方に出逢った日に恋をしたんです。私の初恋です。」

恋を……?

「私は、それまで光を見たことがありませんでした。ずっと、暗闇のように世界が映っていたんです。貴方は、最初私にこう言いました。」

『好きです!って言われたら貴方はどうする?』

「……ってね。びっくりしました。でも、それと同時に私は貴方を愛したんです。」

「……あなたは、なんて答えたの?」

『私も、貴方のことが好きです。』

「…と、答えました。今でも、不思議です。初対面のかたに、告白したんですから。」

そうよ。本当は、よく覚えてる。

あの桜の木の下、私はあなたの上に乗っかって、話しかけた。

「そのときの言葉は、現実に実ったはね。すぐに、散ってしまったけれど。」

「いいえ。散ってなどおりません。」

「??どういうこと?」

「この中に、この胸の中にしかと、しまっておりますので。」


そこから、私はなにも答えることができなかった。


しばらく歩いていると、家に着いた。

「…あの、お嬢様。怒鳴ってしまい、申し訳ございません。」

結羽が、謝るのは、執事だから。
でもね、結羽…

「何いってるの?あなたは……結羽は、私の恋人なんだから、謝らないで‼」

いつも以上に大声で叫んだせいか、家にいるはずの父様が、外に出ていた。

「……お嬢様、それはもう昔の話ではないですか。今は、高宮様がいらっしゃいます。どうか、そのような…「うるさい!!!!!何度言わせるつもり?あなたは、私の恋人。私だって、あのとき初恋なんだから。」

「お…お前たち、どういうつもりだ?結羽、あれほど桜を大切にすると、約束したではないか。」

父様が、真っ青な顔して、言った。

「……お嬢様、本当に、よろしいのですね?」

「何度も言わせるなと、言ったはずよ。」

「わかりました。」

そう言うと、結羽は父様の方を見た。

「お父上様、申し訳ございません。ですが、これだけは言わせてください。あんな、お嬢様のことを利用する者を、お嬢様の婚約者にすることは、断じてなりません‼」

結羽…気づいてたのか。

「私は、生涯お嬢様を…桜を幸せにします。もう二度と、泣かしません。」

「う…うるさい!だから、お前の主人は私だろう、私の命令に従え!!」

「…いいえ。私のご主人は、桜御嬢様ただ一人です。」

「ぐっ!」

すると、中から母様が出てきた。

「桜。本当に、もう後悔はないのね?」

母様…。

「はい。ありません。」

「あなた、もういいではありませんか。この子の婚約者は、この子が決めることです。」

「むむむ。……っ!わかった!認めてやる。ただし、ここで暮らすんだぞ。」

父様……。

ありがとう。

「お嬢様、改めて宜しくお願いいたします。」

「私の言うことに何でも従いそうね?」

「仰せのままに、お嬢様。」