廊下を歩いてると、既に食事を終えた生徒が私に声をかけてくる。
それに笑顔で答えながら、音楽室へと向かう。
音楽室に入ると、練習を開始した。
朝よりかは上手く弾けてると思う。…ような気がする。
腕を組みながら、少し楽譜とにらめっこしていると。
「やっぱり先生いないとダメですかね?」
そう突然声がして、ハッとして顔を上げた。
扉に寄りかかり、私に笑顔を向けるのは久住君だった。
「久住君…」
「俺がこないだ言った事、先生全く以て出来てないです」
「……」
まじか。出来てないか。
メモったつもりだったんだけど。
そして、それを実行してるつもりだったんだけど。
久住君はピアノ前まで来ると、私の後ろから腕を伸ばして楽譜を指差す。
「ここ。この入りですけどね」
それから、私の手の上に自分の手を乗せると一緒に鍵盤を押していく。
……ち、近い。
触れてる。
頭、パニックなんですけど。
ちょ、ちょっと待って。
私があわわとしてる間に、久住君のレッスンは終わっていた。



