「もしもし」
『もしもし。あ、安西先生ですか?』
「…って、もしかして久住君?」
『そうです』
「どうした、何かあった?」
『いいえ、何も。ちょっと声が聞きたくなって』
「え」
そろーっと私は春斗の方を向く。
春斗はムスっとした顔をしていた。
うう。
声、聞こえてないよね?
『ダメでしたか?』
「いや、ダメではないけど」
私を置いてすたすたと先に歩く春斗に、思わず声が出そうになる。
どうしようかと気持ちばかりが焦って行く。
そこに。
「真央梨。置いて行くぞ」
絶対、明らかに確信犯の春斗のでかい声。
それはもちろん通話相手の久住君にも聞こえたみたいで。
『……今、誰かといるんですか?』
そうやって、尋ねられてしまって。
……何も言い返せない。



