「でも、なんですか?」
顔を覗き込む久住君に、私は小さく首を振った。
「ううん。何でもないよ」
「そうですか?」
「うん。それより、早く帰らないと親御さん心配させちゃう」
「もう少しこうしてたいです」
ぽすんと私の肩に顔を埋めて来る久住君に、ふふっと笑みが零れるけどそうも言ってられない。
私は教師なのだ。
「ダメです」
「……ちぇ」
口を尖らせる久住君に笑いながら、私は背中を押す。
久住君も渋々歩き出した。
久住君の家まで送るつもりたったのに、久住君が必死に断って来るから今度は私が渋々頷いた。
「あ。久住君、連絡先教えておく」
「え」
私はカバンからメモ用紙を取り出すと、それに携帯番号を書いていく。
それからビリっと破って、久住君の手に強引に持たせる。
「何かあったらすぐに連絡する事」
「……はい」
「よし。それじゃ、また学校でね」
「はい」
手を振って、別れると自宅へと向かった。



