「それじゃ、行こうか」
「はいっ」
久住君はふわふわの髪の毛を揺らして、元気よく頷いた。
帰る準備をして、連れてった場所は行きつけの定食屋さん。
ガラガラ鳴る扉を開けながら、私は先に中へと入る。
「こんにちはー」
「はーい」
奥からすぐに顔を出した、店主の沢さん。
私に気付くと、目尻に皺を寄せて微笑む。
「真央梨ちゃん。いらっしゃい」
「沢さん、お腹空きましたー」
「ふふ、はいはい。あれ?そっちの可愛い子は」
後ろから顔を覗かせる久住君。
沢さんに一度ぺこりと頭を下げた。
「うちの生徒の久住君」
「あれま。生徒!先生、いいのかい」
「あはは。今日は久住君がピアノの先生してくれたんだから!」
「ほほー。それはそれは。まあ、綺麗な顔立ちしてるね」
沢さんは繁々と久住君の顔を見ると、感嘆の声を漏らす。
久住君は少しだけ照れて顔を俯かせた。



