「あ、そうだ、おじいちゃんにも聞きたいことがあったんだった」
「ん? 遠慮なく聞くといいぞ。この際、何でも答えてやりたいからな」
 おじいちゃんは、すぐに真面目な顔になって言ってくれた。
「えっと、それじゃ、どうして八重桜さんたちは、父親として名乗りを上げてくれたのかな?」
 真実を知ってから、密かに心に引っかかってたことだ。
「あくまでも推測じゃが、ヤツらはどうせ『胡桃の娘を引き取りたい』とかいう、下種(げす)な考えじゃろ。みんな胡桃を狙っておったからな……。あいつらの考えることは所詮、その程度のことに決まっとる。ちなみに……わしはお前がいずれブログを立ち上げるだろうなってことは、予想しておってな。涼君トコに居候してるわけじゃし、圭ちゃんか涼君が勧める可能性大だとみておった。そんで、ブログが立ち上げられたことを知ったわしは、かつて劇団員時代に親しくしていた数名の友に、こっそり知らせたわけじゃ。わしからさくらに詳しく事情を話す勇気はないわけじゃし、他の人に頼もうという算段じゃな。わしとしても、さくらが自ら真実までたどり着くのならそれでいいと思っとったし、ヒントめいたことは色々伝えておいたはずじゃ。胡桃と一緒に暮らしてた街は、涼君らが住んでいるあの街じゃし、マツダイラカメラ店も胡桃とわしの行きつけの店じゃったよ。主人は今は福岡にいるそうじゃが、まだ連絡は取り合っておるしな。ともかく、いつの間にか、どこからともなく事情を嗅ぎ付けた野良狼どもが群がってきたのは誤算じゃった。言うまでもなく、八重桜や一髪屋のことじゃよ」
 本間さんも、きっとそうなんだろう。
 でも、直真さんは違うかな。
 本当に有益な情報をくれたし、いい人だし。

「でもな、ちょっと考えれば、八重桜はともかく、一髪屋はお前の父ではあり得んと分かったはずじゃ。ヤツの代表曲、その曲名を覚えてるじゃろ?」
「ふられた今宵に、わななき夜桜? あ!」
 おじいちゃんの言いたいことが分かった。
 ふられた……って……。
「そうじゃ。『桜』という文字が入っていることから考えても、これはきっと、例のキーホルダーのことを考えて作ったに違いない。すなわち、胡桃のキーホルダーじゃな。それなのに、タイトルに『ふられた』ってなってるじゃろ。つまり、ふられてるんじゃよ、ヤツは」
「なるほど~」
 そんなところまで、考えが及ばなかった。
 この点に関しては、涼君も同じようだ。
「八重桜や一髪屋は、昔から野良狼なんじゃよ。そういうことじゃから、『DNA鑑定を受ける』と言ったとしても、あいつらはきっと裏で工作しとるよ。その鑑定の会社を買収するなり、あるいは知り合いのいる会社を紹介するなりでな。とりあえず、わしが劇団員時代、最も腹黒いと思ってたのが、その二人じゃ」
 本間さんは入ってないんだ。
 やっぱり、意外といい人なのかも。
 本当のところはどうだか分かんないけど。

 それにしても、八重桜さんって、そんな人だったんだぁ……。
 本間さんも八重桜さんのことだけは、特に辛らつに批判してたっけ。

「まぁ、とにかく……そうやって、ヒントを出して、さくらの手助けをしていたわけじゃが……さっきの話と重複するが、わしの最初の検査結果がエラーと分かっての。わしとすれば、『もう命は助からん』という覚悟のもと、そうして、さくらに真実を知ってもらいたがっていたのに、突如として手のひらを返して『まだまだ長生きできますよ』って言われたら、慌てるのは当然じゃろ。それで、そこからは出来る限り、さくらに何を話されても聞かれても、しらばっくれたり、はぐらかしたりしたんじゃが……。用意していたヒントが多すぎて、次々とバレていったわけじゃ。あえてクローゼットの下に服をはみ出させたり、メモ帳にこれ見よがしにファウンテンと書いたり、な……。まぁ、よっぽどの洞察力がないと解けんとは思っとったが……涼君なら解くじゃろうとうすうす気づいてはいたよ。そして結局そうなったな。でも、いいんじゃ。結果オーライってことで。結局、いずれは話さにゃならんこと。そして、知っておいてもらいたいことじゃったしな。わしの力だけではどうにもならんかったが……こうして、涼君や他のみんなの尽力もあって、伝えることができた。本当によかったと思うし、みんなに感謝してる」
「……おじいちゃんも大変だったね……」
 おじいちゃんのその「覚悟」を思うと、ちょっと泣けてきた。
「泣くな泣くな! こうして元気いっぱいに、戻ってきたわけじゃしな」
「そうですね、さくらには笑顔が似合いますよね」
 そんなこと言われると、また顔が赤くなるよ~。

 すると、空には連続で数十発もの花火が上がった。
 中には驚くほど大輪のものもある。
 消えてゆく際にも、キラキラと星屑のような輝きを残しながら、花火たちの競演は続いた。
 花火大会もクライマックスのようだ。
 夜空を鮮やかに染め上げていく花火を、私たち三人は笑顔で見つめていたのだった。



                       【完】