「え?」
 一瞬戸惑った私だったが、すぐに思い出した。
 この街に来た初日、マツダイラ・カメラ店について尋ねたときにお世話になった警官さんだ!
「奇遇ですね。こんな形で再会できるなんて」
 驚いて言葉も出ない私を見て、直真さんが笑顔で言う。
「え、ええ。あのときは、大変お世話になりました」
「いえいえ、本官は全くお役に立てませんでしたし」
 今は非番のはずなのに、一人称が「本官」だった。
 きっと真面目な人なんだろうな。

「え? お二人はお知り合いなのですか?」
 涼君が、やや驚いた様子で聞いてきた。
 私たちが事情を説明すると、納得してくれたようだ。



「カレーパン、おいしかったです!」
 私が言うと、直真さんは嬉しそうに「でしょ?」と言った。

「それじゃ、さっそくなんですが……コメントに書いていただいた『伝えたいこと』について、お話いただけますか?」
 私がそう言うと、直真さんは真面目な表情になる。
 涼君と私は、静かに話が始まるのを待った。

「えっとですね……」
 直真さんは、何から話そうか少し迷っているような様子だったが、ゆっくりと話を切り出した。
「本官があなた方をお呼び出しした理由は、本官の知る情報が少しでもお役に立てればと思ったからです。昨日、ブログを拝見しましてね。コメント欄は、全部拝見したわけではないのですが、一髪屋という懐かしいお名前も見つけましたし」
「えっ?! 一髪屋さんをご存知なのですか?」
 私は、思わず口を挟んでしまった。
 涼君も驚いた様子だ。
「はい。何せ……四、五年間ほど付き合いのあった時期が、過去にございましてね。ことさら仲がよかったわけでもありませんが、たまに話す程度の間柄ではあったもので。もちろん、彼のその『一髪屋』という名前は芸名でして、本官と交流があった時期は、そんな名前ではなかったんですが。その後、歌手デビューにあたって『一髪屋』に改名したと聞いてます」
 一髪屋さんのお知り合いだったんだ……。
「しかし、情報というのはこのことではないのです。脱線しましたね、すみません。情報はこれについてです」

 直真さんはそう言うと、バッグからキーホルダーを取り出した。
 見慣れた押し花キーホルダーだ。
 直真さんがバッグに手を入れたときには、すでに想像できたことだった。
 八重桜さん、一髪屋さんに次いで、今回でもう三度目だし……。
「直真さんもお持ちなのですね。私のとよく似ていますね……」
「ええ。ところで、一髪屋君とは、もうお会いになりましたか?」
「はい、昨日お会いしました」
 私は昨日の一髪屋さんとの話し合いのことを、かいつまんで話した。