私たちは、出店の並ぶ通りに到着した。
 予想していたよりも、はるかに賑わっている。
「迷惑じゃなかったら、でいいんだけど」
 涼君が言いにくそうに、私から視線をそらして言った。
「はぐれないように、手をつなごうか」
「ええっ?!」
「嫌ならいいんだ。気にしないで」
「ううん、嫌じゃないの!」
 私は慌てて否定する。
 嫌がっていると勘違いされたら、それこそ嫌だ。
 でも、何だか……涼君、いつもよりも積極的?
 これも浴衣効果かな?
 浴衣最高!

「ちょっとびっくりしただけ。涼君がよければ、ぜひ。はぐれちゃうと困るし」
 私は、右手を涼君の前に差し出す。
 その手をサッと取ってくれる涼君。
 男子の手をしっかり握るのは、中学のときのフォークダンス以来で、かなり恥ずかしい。
 いつもより汗をかいているけど、この汗は暑さのせいだけじゃない……かも。
 でも、心はうきうきしてる。
 すごく。

 涼君の手は、大きくて、身体同様にがっしりしていた。
 ドキドキして顔が熱くて、今にも逃げ出したいような、でもずっとこのままいたいような、説明できない不思議な気持ち。
 そして、これは誰がどう見ても……デートかな。
 涼君のほうから「手をつなごう」って言ってくれたってことは、少なくとも嫌われてはないということがはっきり確信できて、ちょっと安心した。

「まず、どこへ行こうか?」
 涼君が聞いてきた。
「最初は、やっぱりお参りかな。神社、この先にあるの?」
「うん、もう少し先。それじゃ、お参りにいこう」
 私たちは神社へ向かった。



 神社では、お参りのあと、絵馬を書いたり、おみくじを引いたりした。
 出店の並ぶ通りと同じく、すごい人混みだ。
 隣に涼君がいるということで、「おじいちゃんが早く退院できますように」と「早く生みの両親が見つかりますように」ということだけしか、言ったり書いたりできなかったけど、本当は涼君への片思いのこともお願いしたかった。
 今度、一人でまた来ようっと。
 おみくじは、二人とも「吉」という、かなり良い結果だった。
 確か、「大吉、吉、中吉、小吉、末吉、凶」の順だったはず。
 大吉はそんなに簡単に出ないか……。
 私のは「久しく深い悩みもやがて雲散霧消し、春の桜のごとく次第に喜びが広がるだろう」と書かれていた。
 春の桜……悩みもやがて消える……何だか私にぴったりの内容だ!
 いい感じ!



 そのあと、神社を後にした私たちは、ゆっくりと出店を見て回ることにした。
 まず目にとまった金魚すくいは、「しっかり育てられるか分からないし、金魚がかわいそう」ということで素通りする。

 そのあと、射的のお店があって、涼君が「これやってみる」と言って立ち止まる。

 模型銃を握ると、片目を閉じて狙いをつける涼君。
 かっこいい!
 三発目で、鹿のぬいぐるみをゲットした涼君は、それを私にくれた。
 かっこよすぎる。
 私は喜びのあまり、何度も何度もお礼を言った。
 でも涼君は「二発外した……俺もまだまだだ」と悔しがっている。
「でも、スパイナーみたいで、かっこよかったよ!」
 私は思ったまま口にしたんだけど、きょとんとする涼君。
「ああ、スナイパーだね」
 な、何というミスを……。
 ああっ、このままでは頭のかわいそうな子に思われてしまう!
「でも、銃を構えるあの様子、スパイっぽいから、間違えやすいよね」
 涼君の優しいフォローが、心に染みる。
 とほほ……。
 草履忘れ事件もそうだけど、ますます私の評価が下がったよ、きっと……。
 早々に挽回しないと。



 そのあと、わたあめや水風船を買ったり、輪投げなどをしたりして楽しんだ。
 涼君と一緒だと、何をやっても楽しく感じる。
 最後に、美優さんたちへのおみやげとして、たこ焼きを多めに買い、私たちもりんごあめを買って、縁日を後にした。



 いつの間にか、あたりはかなり薄暗くなっている。
 二人でりんごあめを食べながらの帰り道、ふと気になったことがあって、涼君に聞いてみた。
「そういえば、海外ではりんごあめってあるのかな? 涼君は知ってる?」
「ああ、偶然知っているんだけど、あるらしいよ。欧米の色んな国でね。例えばイギリスでは、キャンディーアップルと呼ばれてて、ガイ・フォークス・ナイトやハロウィンでの定番のお菓子みたいだよ。国や地域によっては、普段から買える場所もあるらしいね。日本では普通、普段からりんごあめを買えるところなんてほとんどないけどね」
「うわぁ、物知りだね」
 感心のあまり、つい、月並みな褒め言葉を言ってしまった。
 私の評価が、このままだと一向に上がらない気が……。
 気を取り直して、気になったことを続けて質問してみる。
「ガイ・フォークス・ナイトって、何かの行事?」
「うん、イギリスの風習で、十一月の初旬だったはず。詳しい日付は忘れちゃった、ごめんね」
 それにしても、本当に物知りだなぁと思った。
 私の知識は、自分が興味を持っていることに限られているし、私ももっと色々なことを知らないと。

 そのあと、たわいもない世間話をしているうちに、清涼院家に帰り着いた。