「おお、おかえり! ありがとう!」

 扇子を受け取ったおじいちゃんは、満面の笑みを浮かべている。
「ねぇ、おじいちゃんってコスプレの趣味があるの?」
「なにっ! クローゼットを開けたのか?!」
 おじいちゃんは、おろおろした様子だ。
 ちょっとかわいい。
「だって、服の裾が扉の下に挟まってるんだよ! あんなことしてたら、服が痛むじゃん。だから、挟まないように直しておいてあげたよ」
「そかそか、ありがとうな。いや、昔の話じゃよ。以前は、ハロウィンのときなど、仮装するのが大好きだった、それだけのことじゃ。さすがに、今あの衣装を着るのは、無理がありすぎる」
 おじいちゃんは、笑って言った。
「そんなことより、二人とも、例の袋はちゃんと取ってきたか?」
 ポテチのことかな?
 そこで涼君が、ポテチの袋をおじいちゃんに見せながら言った。
「これ、いただきますね。ありがとうございます」
「気にしなくていい。もっといいものをあげられなくて、すまん」
「いえいえ、とんでもない」
 それからしばらく、私たちはたわいもない雑談をした。
 将棋の話題とかも。
 でも、アルバムを勝手に見てしまったことがバレると怒られそうなので、あのアルバムにあった写真やそこに写った人のことは聞けずじまいだった。
 気にはなっていたんだけど……。



 しばらく話していると、後ろの扉をノックする音が聞こえ、看護師さんが「花ヶ池さん、失礼しますよ」と言いながら入ってきた。
 看護師さんの様子から察するに、どうやら検査の時間のようだ。
「それじゃ、私たちはこれで。また何かあったら、すぐ連絡してね」
 涼君と私は、やおら立ち上がる。
「おう、またな」
 おじいちゃんは、元気よく手を振りながら言う。
 涼君と私も「それじゃ、また」と言って、手を振り返し、看護師さんに軽く会釈をしてから、病室をあとにした。