「そんなことが! ほんとに大丈夫だったの?!」
 美也子さんが、驚いた声をあげる。
 翌朝、みんながそろっているところで、私が前日に起きた出来事をかいつまんで説明したところだ。
 テーブルの上には朝食が並んでいて、みんな食べながら私の話を聞いてくれている。
 色んな人に心配かけちゃったみたいだな……。

「ええ、何ともないです。ご心配をおかけしてすみません」
 無用心な行動を思い返すと、少々ばつの悪い思いだった。

「整理すると、八重桜という人も本間という人も、さくらちゃんの父親として名乗りを上げた。母親に関しては、二人とも胡桃さんという女性がそうだと言っている。………ということだね?」
 光定さんがまとめてくれた。
「はい、そうです」
「二人も名乗りを上げるとは……。混沌としてきたね」
 苦笑して言う圭輔さんに向かって、涼君がすかさず言った。
「お父さん、なんで面白そうに言ってるんだよ。さくらちゃんの身になってみろって。笑い事じゃないよ」
「ああ、すまん、すまん。さくらちゃん、申し訳ない」
 圭輔さんは、途端に申し訳なさそうな様子になる。
「いえ、いいんですよ」
 慌ててフォローしておいた。

「お、もうこんな時間か。さて、それでは行ってきます」
 元気よく言うと、圭輔さんは家を出ていった。
「早く両親がはっきりするといいねぇ」
 美優さんが言う。
「そうだね。とりあえずは、八重桜っていう人からの連絡待ちということかな? DNA鑑定の日時が決まらないとどうしようもないね」
 光定さんが言った。
 まさにその通りだと思う。
 しばらくは、連絡待ちということになるんだろうなぁ。
 それまで、動きようがないし。



 朝食を終えて、涼君と私はそれぞれの部屋に戻った。
 そういえば、八重桜さんからの連絡は来てないかな。
 私はスマホを取り出した。
「あ! 来てる!」
 私は、思わず大きな声で独り言を言ってしまった。
 文面を読むと、「来週水曜日はどうでしょうか?」とある。
 今日は木曜だから、六日後か。
 とりあえず、私は涼君に急いで知らせにいった。



 涼君が「来週水曜日なら、自分も何も予定がないから大丈夫」と言ってくれたので、「その日でお願いします」と八重桜さんに返事しておくことに。
「来週水曜まで、動けなくなっちゃったみたいだね。そもそも、ここまでかなり色んなことが一気に起こりすぎていた気がするし、さくらちゃんも疲れているだろうから、のんびり過ごすのもいいかも。もちろん、先のことは気になるだろうけど、来週まではどうすることもできないから、あまり悩みすぎず、考えすぎず、ね」
 涼君が優しく言ってくれた。
 ほんとに、色々なことが立て続けに起こりすぎ!
 それでちょっと疲れたのも確かだった。
「それじゃ、息抜きも兼ねて、今日はゆっくり遊びに行こう! 今日の夕方からはちょうど、近所の神社で縁日もあるからね」
 初耳だった。
 私は毎年夏、滋賀県と京都宇治の大規模な花火大会には欠かさず行っているんだけど、縁日や夏祭りにはずいぶんとご無沙汰だったように思う。
 最後に行ったのはいつなのか、はっきりした記憶はないけど……小学生の頃に行った気はする。
 それ以来ってことになるのかぁ。
 近所であまり縁日をやってるとこがないんだよね……。

 今年は参加できるかもって思うと、テンションがぐんぐん上がってきた。
 それも、涼君と……。
 ダメダメ、顔が赤くなるとバレるバレる!
 バレて避けられでもしたら、立ち直れないし。

「どうしたの? 縁日はイマイチ?」
 慌てて私は答えた。
「ううん、そうじゃなくて! 縁日に行くのって久々だなぁって。それに、浴衣をここに持ってきてないから、いったん帰らないといけないなって思ってね。おじいちゃんのお見舞いもしたいし」
「そうだね。それじゃ、まずヒサさんのところにお見舞いに行こう! 昨日のことの報告もしなくちゃね」
「うん。おじいちゃん、元気かなぁ……。それじゃ、行こうよ」
 私たちはおじいちゃんの入院している病院へ向かうことにした。