新幹線内にて私は、離れ離れになってから合流するまでに起こった出来事を、涼君に話した。



「そっか……無事で本当によかったよ……」
「うん、心配かけてごめんね」
 自分の言動を思い返すと、かなり無用心だったと思う。
 もっと気をつけないとダメだな……。
「それにしても、僕は悔しいよ! 僕がついていながら、あんなにやすやすとさくらちゃんを連れていかれるなんて」
 涼君はうつむいている。
「向こうは三人もいたんだもん、仕方ないよ」
「分かってる。分かってるけど……悔しい!」
 負けず嫌いなんだなぁ。
 そういうところが、サッカーの試合で活きているのかな。

 これがもし「私のことがことさら大事だから」「その私を守れなかったから」っていう理由なら、嬉しいのになぁ。
 そんな風に思ってもらえる日は、来るんだろうか。

「ところで、本間とさくらちゃんに、同じアザがあったんだってね」
「うん。これね」
 私は左ひじを指し示す。
「そして、本間はチェリーブロッサムの首領だった、と。あいつの言動を見る限り、嘘やペテンなども平気なようだから、話を鵜呑みにはできないと思うんだけどなぁ……。うーん、アザかぁ」
「私のここにアザがあると知っていた。……ということは、私のことを以前から知っていたってことで、間違いないんじゃない?」
「うーん……」
 涼君は深く考え込んでいる様子だ。

「ちょっと話は変わるけど、お母さんが胡桃さんだってことは、八重桜さんと本間とで意見が一致している部分だよね。お父さんが二人のうちどちらなのか、ということはともかく。実際、胡桃さんの写真を見ると、さくらちゃんにそっくりだし、そこは僕も異論はないなぁ」
 私も同意見だった。
 もっとも、しっかりした根拠というと、八重桜さんと本間さんの話だけなんだし、断定するのはまだ早い気もするんだけど。
 それに、もう亡くなっているということが、悲しい。
 生きていてほしかった……。
 たとえ、もし私のお母さんじゃなかったとしても、どちらにしても、生きていてほしかった……。

 涼君は続けて言う。
「八重桜さんも本間も、自分が父親だと名乗り出たってことは、少なくともどちらかは確実に嘘をついているってことで、間違いないことになるね。だから、どこまで信用していいのか、まるで分からないよ。とりあえず、八重桜さんとの関係は、DNA鑑定の結果ではっきりするね」
 そうだった。
 その結果次第で、八重桜さんがお父さんかどうかということだけは、少なくともはっきり分かることになる。
 そのときがすごく待ち遠しくなった。
「八重桜さんの連絡待ちだね」
 涼君は軽くうなずきながら言った。



 その後、疲れからか眠くなってきたので、涼君に伝えて、京都駅到着まで寝させてもらった。
 目を閉じる前、涼君の横顔をちらっと盗み見る。
 真剣な表情で、考え事をしているようだった。
 しかし、すぐに私のまぶたは完全に降りて、まもなく記憶が途切れた。



 京都に到着してから、カフェで軽食をとった私たちは、それを夕食としておくことにした。


 それからバスに乗り、清涼院家に到着すると、家の人にあいさつだけすませて、それぞれの部屋に戻る。



 さっとシャワーだけ浴びると、また自分の部屋へ戻る私。
 寝る前に、スマホで確認したが、八重桜さんからのメールはまだ来ていないようだ。
 新幹線内で寝たにも関わらず、疲れのせいか、布団に入った私はすぐ眠りに落ちた。