「部外者が口を挟んですみませんが、ちょっといいでしょうか?」
「ええ、何でしょう?」
「昔はなかったと思いますが、今はDNA鑑定というものがありますよね。それをお二人でお受けになってはいかがでしょうか? それで、はっきりすると思うのです」
 それ、どこかで聞いたことがある。
 さすが、涼君。
 それではっきりするかも!

「どのような方式なのでしょう? そして、どこで受けられるのか、清涼院さんはご存知なのですか?」
 八重桜さんの声の調子は変わらないものの、急に少しだけ早口になった気がした。
 私の気のせいかもしれないけど。
「それはすぐにネットで調べられますよ。『善は急げ』ということで、さっそく今からでも、どうでしょう? 鑑定を行ってくれる会社あるいは研究所に、コンタクトを取られてみてはいかがでしょうか?」
「さくらさんは、いかがですか?」
 八重桜さんは私に向かって聞いた。
「あ、はい! それではっきりするのなら、ぜひお願いしたいです!」
 私は元気よく答えた。

 ところがそこで八重桜さんは何かを思い出したかのように、慌てた様子で手帳を取り出す。
 そして、中身を見ると目を閉じてうなった。
 どうしたんだろう。

「ああー、しまった……! 申し訳ないのですが、今日はこの本社にずっといると社員にも伝えてありましてね。そういう社内連絡などの準備が必要なので、申し訳ありませんがまた後日というわけにはいかないでしょうか? せっかくはるばる東京まで来ていただいた上に、こんなことを言うのは、大変心苦しい限りなのですが……」
 困りきった表情なので、同情してしまう。
 写真を二枚ももらったり、忙しいところを貴重な時間をとってもらったり、交通費を出してもらったりと、かなり親切にしてもらっているので、ここで「嫌です」とは言えるわけがなかった。
「そういうことなら仕方ないですよね。また改めて、日取りなどを決めていただけますか?」
「はい、どうもすみません。よろしければ、メールアドレスと電話番号を交換しませんか?」
 八重桜さんの申し出を受けて、私たちは交換を済ませた。

「今日はどうもありがとうございました」
 私はそう言って、涼君と一緒に深々と頭を下げた。
「いえ、こちらこそありがとうございました。遠いところ、すみませんでしたね。また近いうちにお会いできると思いますが、是非よろしくお願いしますね。それでは少々お待ちください」
 八重桜さんはにこやかに言うと、スマホを取り出してどこかに連絡を取っているようだった。

「また酒井が駅までお送りいたします。それでは、また」
 通話を終え、私たちに向き直ってそう言うと、一礼する八重桜さん。
 私たちもお辞儀を返した。
 すると、ノックの音と「失礼します」という酒井さんのものらしき声が聞こえる。
 八重桜さんが「お入り」と声をかけると、酒井さんが入ってきた。
「お疲れ様です。では、どうぞこちらへ」
 酒井さんに促され、応接室を後にした。