カフェで食事をとったあと、涼君の通う高校へと足を向けた。
 カフェの中はクーラーがよく効いていて涼しかったけど、外に出たら、当然のことながら、ものすごく暑い。
 午後に近づくにつれて、ぐんぐん気温が上昇しているようだ。
 セミは気温に関係なく、元気に鳴いてるけど、その元気を分けてほしい……。
 そんなくらい暑かった。



 少し歩くと、グラウンドを囲うフェンスが見えてきた。
 ところどころにベンチが設置されている遊歩道を、私はどんどん歩いていく。



 やがて、グラウンドがよく見える特等席のようなベンチまで、たどり着いた。
 そのベンチを独占する形で、腰を下ろす私。
 ちょっと早く来すぎたかな?
 まだお昼休みの最中なのか、グラウンドには誰もいないみたい。



 しばらくすると、少し離れたところから人声がして、ユニフォーム姿の男子たちの姿が続々と現れた。
 その中に、涼君の姿を発見した私は、急激にテンションが上がる。
 私にとっては、涼君以外の男子の姿は、眼中になかった。
 だけど、恥ずかしいので声をかけることは、できるわけがない。

 涼君はすぐ、こちらに気づき、手を振って合図を送ってくれた。
 そばにいる人と何か話したみたいだけど、会話の内容までは、ここからは聞き取れない。
 涼君の背番号は「10」だった。
 サッカーにおけるエースナンバーであることは、私も知っている。
 キックオフ前、各ポジションに全選手がついたとき、中盤あたりに彼がいるのに気づいた。
 涼君のいるチームのほうは普通のユニフォーム姿だけど、相手チームは全員、ビブス(ゼッケン)をつけている。
 チーム分けのためだろう。
 まもなく、ホイッスルが鳴って、試合が始まった。



 試合は「2-0」で、涼君のチームの勝利だった。
 二点目をアシストして、チームの勝利に貢献した涼君。
 かっこよすぎる!



 そのあと解散となったようなので、校門前に移動して涼君を待つ私。
 割と早く出てきてくれたので、あまり長く待たずに済んだ。
 私に気を遣って急いできてくれたのかな。
 何だか申し訳ないような、嬉しいような、複雑な気持ちだ。

 必要ないかもしれないとは思いつつ、私はタオルと、事前に買っておいたジュースを差し出す。
 彼は一瞬びっくりしたようだけど、すぐに笑顔で「ありがとう」と言ってくれた。
 ジュースを渡すとき、指が触れ合って、ドキッとしてしまう。
 動揺しているのを悟られないように、精一杯、笑顔を作って話しかけた。
「10番なんだね」
「うん、まぁね」
 事も無げに言う涼君。
 自慢するような態度をとらず、自然体なところもいいなぁと思った。
「10番でキャプテンってすごいね」
「ありがとう。どっちも責任重大なのは間違いないし、俺なりに頑張ってるつもりだよ」
「ポジションはどこなの? 中盤にいたみたいだけど」
 また少し驚いた表情を見せる涼君。
「さくらちゃんは、サッカー詳しいの?」
「それほどでもないけど、たまに観るよ」
「そっか。俺はボランチだよ」
 ボランチといえば、中盤の底に位置するポジションで、日本語だとだいたい「守備的ミッドフィルダー」にあたるらしい。
 攻撃にも時々参加し、守備もこなさないといけないので、体力やスタミナも要る大変なポジションだと思う。
 なるほど、それで彼はがっちりした体格なのかと勝手に納得した。

「また見に行くね」
「練習試合はしばらくないし、練習だけでつまんないかもしれないけど、いいの?」
 涼君は、どこか申し訳なさそうな様子で聞いてくる。
「練習してるところも、ちょっと見てみたくなったから」
「見てもらうほど大した練習もしてないけど、ありがとう! サッカー、好きなんだね」
 内心「実は、練習を見たいってわけじゃなく、練習してる涼君を見たいんだけど」と思ったけど、そんなことを言えるわけがない。
「うん、大好き。見てるだけで、楽しいから」
 私はごまかしておいた。
 そして話を変える。
「あのキーホルダーのこと、思い出したかな? いつ見たのかを……。見覚えがあるって言ってたでしょ」
 ごまかすためだけじゃなく、ほんとに気になってたから、また聞いてみたくなったのだ。

「うーん、ごめん、全く思い出せないんだ。ひょっとすると、俺が似たキーホルダーを持ってたのかもしれないし、帰ったらとりあえず探してはみるけど、期待はしないでね。だいたいそもそも……似たキーホルダーを、俺が持ってて見覚えがあるのか、どこかで見たことがあるだけなのか、それすら分からないんだ」
「そっか……」
「とりあえず、似たのを俺が持ってないか、帰ったらすぐ探してみるよ。何か分かったり思い出したりしたら、すぐ教えるからね」
「うん、ありがとう」
 そして、私たちは再び話題を変えて、サッカー談義などで大いに盛り上がった。