「なぁ、さくら。突然なんだが、伝えないといけないことがある」
夕食を済ませた後、いきなりおじいちゃんが私に話しかけてきた。
改まって、どうしたんだろう?
そういえば今日、おじいちゃんは病院へ行ってきたはずだ。
でも、いつもの定期健診だったと聞いている。
まさか……検査結果が良くなかったのかな。
おじいちゃんは普段は能天気で、適当人間という言葉がふさわしい性格の人だ。
寒いオヤジギャグを言うこともしばしばある。
でも、今回は明らかにそういう雰囲気ではない。
おじいちゃんは、至って真面目な様子だ。
こういう態度のおじいちゃんはほとんど見たことがない。
伝えないといけないこと……いったい、何なんだろう……。
不安が私に襲い掛かる。
そして……続いておじいちゃんが発した言葉は、私の予想だにしないものだった。
「お前の両親は、実の両親ではなかったんじゃ」
あまりの驚きに私は固まってしまった。
しかし、おじいちゃんの顔は真剣だ。
いつもみたく「うっそぽーん」とか「いいリアクションいただきました! 敬礼!」とか言って茶化しだすような顔ではない。
だからこそ、衝撃だった。
混乱して頭がうまく働かない。
「どういうこと?」
思考がフリーズしかけながらも、声を振り絞って聞いてみた。
「驚いたか。まぁ無理もない」
おじいちゃんは真顔のままうなずく。
私の両親は今から十年前、私が七歳のときに、交通事故で亡くなってしまった。
すでに物心がついていた私は、泣きじゃくったものだ。
私は一人っ子で、両親とおじいちゃんしか家族がいなかっただけに、なおさら。
おばあちゃんも私が生まれた直後に亡くなったと聞いているので、私は全く覚えていない。
もちろん今となっては、七歳だった当時ほど取り乱してはいないけど、それでも時々両親のことを思って、悲しくなることもある。
その両親が……実の両親ではなかった?
おじいちゃんが私の様子を見ながら言葉を続けた。
「お前が一歳になるかならないかの時、うちが施設から引き取って養子として育ててきたんじゃ」
にわかには信じがたい話だったけど、普段の様子からは想像できないほど真剣なおじいちゃんの顔が、事実を語ってくれていることを物語っている。
私は何も言えなかった。
「まだ物心がついてなかったはずだから、お前が施設のことを覚えていないのも不思議じゃない。じゃが、これは本当のことなんじゃよ」
その時、ふと気になったことがあった。
私は聞いてみる。
「ちょっとすぐには受け入れがたい事実だけど……。それにしても……。どうして、今、教えてくれたの?」
そう……なぜ今になって、こんなことを教えてくれたのだろう。
「いつかは言わなければならんと思っていたよ。今日はもう一つ、さくらに言わなければならんことがあったから、いっぺんに言った方が、お互い心の負担も軽くて済むと思ったからな。それで今日、伝えたんじゃ。今まで黙っていて、ほんとにすまんかった」
え……何?
まだ私に、何か伝えないといけないことがあるの?
一発目からこんな衝撃の事実を言われた私としては、もう一つのほうが怖くてしょうがなかった。
勘弁してよ……。
「ショックを受けたかもしれんな。ごめんな」
おじいちゃんが優しく言う。
「それで、もう一つ、私に言わないといけないことって何なの? そっちも気になる……」
すると、おじいちゃんは、こころもち表情を和らげて答えた。
「まぁ今のに比べると小さい話なんじゃが、わしは入院することになった」
「ええ?! 検査結果がよくなかったの?」
「ああ、先生は何て言ってたかな……。詳しくは忘れたが、何かの数値が上がっていたから、精密な検査が必要らしい。時間もかかるらしくてな。検査入院ってやつじゃ」
「ほんとに大丈夫なの?」
「まず検査入院、それではっきり分かるらしい。さほど重大な様子ではないから、あまり気にしなくてもいい。もし検査結果が悪いと、手術ということになるかもしれんがな。でも、今から心配していてもしょうがないさ」
「そっか……。検査結果、問題ないといいね。……あ! それじゃ、入院準備しなくちゃいけないんじゃない?! いつから入院なの?」
「明日からなんじゃが」
「えええええ!!!」
早く言ってほしかったよ。
色々準備とかもしないといけないじゃん。
「それじゃ、急いで入院準備しないと!」
「準備ってそんな大そうな……。タオルと着替えくらいでいいだろ」
「他にも色々あるでしょ。もっと早く言ってよ~」
おじいちゃんと一緒に、大急ぎで荷物を詰め始める。
正直なところ、こうして違うことを考えることができたのが、そのときの私にとってはありがたかったように思う。
さっきおじいちゃんから伝えられた衝撃の事実から、少しでも考えをそらすために。
少し冷却期間がほしい……そう思ったから。
入院準備を済ませ、部屋に戻ったら、すぐ頭にさっき聞いた衝撃的事実のことがよみがえってきた。
もちろん、おじいちゃんの入院も大きなことだ。
おじいちゃんの身体が心配なのは言うまでもないし、それに、明日からしばらくこの家でひとりぼっちになってしまうのだから。
でも………。
おじいちゃんには本当に申し訳ないんだけど、やっぱり衝撃的事実のことに、すぐ考えが戻ってしまう。
お父さんお母さんが、実の両親じゃなかったなんて……。
しかし、おじいちゃんの言うことが本当で、もし仮に、お父さんお母さんが私を生んでくれたんじゃなかったとしても……二人への私の気持ちは決して変わることはないと、強く思った。
私を愛情たっぷりに育ててくれたお父さんお母さん。
たとえ血のつながりがなくても、もう会えなくなってしまっていても、心のつながりは一生消えない。
そのことは間違いないし、はっきりしている。
それに気づくと、不思議と心は次第に落ち着いてきた。
別に……何も変わらないし、変える必要もない。
お父さんお母さん、そしておじいちゃんが、この事実を私に伏せていたことについて、気持ちは理解できた。
相当言いにくいだろうと思うし、言ったところで私を傷つけるかもしれないと考えてくれたのだろう。
で、もいつか言わないと……そう思って、みんな悩んできたのかもしれない。
私はおじいちゃん、そしてお父さんお母さんに対して、感謝の気持ちでいっぱいになった。
それと同時に湧き上がってきた、もう一つの気持ち。
実の両親にも会いたい……一度でいいから、会ってみたい……。
私は強くそう思った。
夕食を済ませた後、いきなりおじいちゃんが私に話しかけてきた。
改まって、どうしたんだろう?
そういえば今日、おじいちゃんは病院へ行ってきたはずだ。
でも、いつもの定期健診だったと聞いている。
まさか……検査結果が良くなかったのかな。
おじいちゃんは普段は能天気で、適当人間という言葉がふさわしい性格の人だ。
寒いオヤジギャグを言うこともしばしばある。
でも、今回は明らかにそういう雰囲気ではない。
おじいちゃんは、至って真面目な様子だ。
こういう態度のおじいちゃんはほとんど見たことがない。
伝えないといけないこと……いったい、何なんだろう……。
不安が私に襲い掛かる。
そして……続いておじいちゃんが発した言葉は、私の予想だにしないものだった。
「お前の両親は、実の両親ではなかったんじゃ」
あまりの驚きに私は固まってしまった。
しかし、おじいちゃんの顔は真剣だ。
いつもみたく「うっそぽーん」とか「いいリアクションいただきました! 敬礼!」とか言って茶化しだすような顔ではない。
だからこそ、衝撃だった。
混乱して頭がうまく働かない。
「どういうこと?」
思考がフリーズしかけながらも、声を振り絞って聞いてみた。
「驚いたか。まぁ無理もない」
おじいちゃんは真顔のままうなずく。
私の両親は今から十年前、私が七歳のときに、交通事故で亡くなってしまった。
すでに物心がついていた私は、泣きじゃくったものだ。
私は一人っ子で、両親とおじいちゃんしか家族がいなかっただけに、なおさら。
おばあちゃんも私が生まれた直後に亡くなったと聞いているので、私は全く覚えていない。
もちろん今となっては、七歳だった当時ほど取り乱してはいないけど、それでも時々両親のことを思って、悲しくなることもある。
その両親が……実の両親ではなかった?
おじいちゃんが私の様子を見ながら言葉を続けた。
「お前が一歳になるかならないかの時、うちが施設から引き取って養子として育ててきたんじゃ」
にわかには信じがたい話だったけど、普段の様子からは想像できないほど真剣なおじいちゃんの顔が、事実を語ってくれていることを物語っている。
私は何も言えなかった。
「まだ物心がついてなかったはずだから、お前が施設のことを覚えていないのも不思議じゃない。じゃが、これは本当のことなんじゃよ」
その時、ふと気になったことがあった。
私は聞いてみる。
「ちょっとすぐには受け入れがたい事実だけど……。それにしても……。どうして、今、教えてくれたの?」
そう……なぜ今になって、こんなことを教えてくれたのだろう。
「いつかは言わなければならんと思っていたよ。今日はもう一つ、さくらに言わなければならんことがあったから、いっぺんに言った方が、お互い心の負担も軽くて済むと思ったからな。それで今日、伝えたんじゃ。今まで黙っていて、ほんとにすまんかった」
え……何?
まだ私に、何か伝えないといけないことがあるの?
一発目からこんな衝撃の事実を言われた私としては、もう一つのほうが怖くてしょうがなかった。
勘弁してよ……。
「ショックを受けたかもしれんな。ごめんな」
おじいちゃんが優しく言う。
「それで、もう一つ、私に言わないといけないことって何なの? そっちも気になる……」
すると、おじいちゃんは、こころもち表情を和らげて答えた。
「まぁ今のに比べると小さい話なんじゃが、わしは入院することになった」
「ええ?! 検査結果がよくなかったの?」
「ああ、先生は何て言ってたかな……。詳しくは忘れたが、何かの数値が上がっていたから、精密な検査が必要らしい。時間もかかるらしくてな。検査入院ってやつじゃ」
「ほんとに大丈夫なの?」
「まず検査入院、それではっきり分かるらしい。さほど重大な様子ではないから、あまり気にしなくてもいい。もし検査結果が悪いと、手術ということになるかもしれんがな。でも、今から心配していてもしょうがないさ」
「そっか……。検査結果、問題ないといいね。……あ! それじゃ、入院準備しなくちゃいけないんじゃない?! いつから入院なの?」
「明日からなんじゃが」
「えええええ!!!」
早く言ってほしかったよ。
色々準備とかもしないといけないじゃん。
「それじゃ、急いで入院準備しないと!」
「準備ってそんな大そうな……。タオルと着替えくらいでいいだろ」
「他にも色々あるでしょ。もっと早く言ってよ~」
おじいちゃんと一緒に、大急ぎで荷物を詰め始める。
正直なところ、こうして違うことを考えることができたのが、そのときの私にとってはありがたかったように思う。
さっきおじいちゃんから伝えられた衝撃の事実から、少しでも考えをそらすために。
少し冷却期間がほしい……そう思ったから。
入院準備を済ませ、部屋に戻ったら、すぐ頭にさっき聞いた衝撃的事実のことがよみがえってきた。
もちろん、おじいちゃんの入院も大きなことだ。
おじいちゃんの身体が心配なのは言うまでもないし、それに、明日からしばらくこの家でひとりぼっちになってしまうのだから。
でも………。
おじいちゃんには本当に申し訳ないんだけど、やっぱり衝撃的事実のことに、すぐ考えが戻ってしまう。
お父さんお母さんが、実の両親じゃなかったなんて……。
しかし、おじいちゃんの言うことが本当で、もし仮に、お父さんお母さんが私を生んでくれたんじゃなかったとしても……二人への私の気持ちは決して変わることはないと、強く思った。
私を愛情たっぷりに育ててくれたお父さんお母さん。
たとえ血のつながりがなくても、もう会えなくなってしまっていても、心のつながりは一生消えない。
そのことは間違いないし、はっきりしている。
それに気づくと、不思議と心は次第に落ち着いてきた。
別に……何も変わらないし、変える必要もない。
お父さんお母さん、そしておじいちゃんが、この事実を私に伏せていたことについて、気持ちは理解できた。
相当言いにくいだろうと思うし、言ったところで私を傷つけるかもしれないと考えてくれたのだろう。
で、もいつか言わないと……そう思って、みんな悩んできたのかもしれない。
私はおじいちゃん、そしてお父さんお母さんに対して、感謝の気持ちでいっぱいになった。
それと同時に湧き上がってきた、もう一つの気持ち。
実の両親にも会いたい……一度でいいから、会ってみたい……。
私は強くそう思った。