客観的に見たら、既婚者だから好きだなんて言えない、なんて言う課長は、誠実なようにして、実は残酷で、ずるいのかな?

私を安心させることよりも、自分に正直であることを優先させてる?

いろんなことを、最終的には私に選択させる。

これは私の被害妄想?

恋愛に、ずるいもずるくないもないのかな?

そう思いたいのに、課長が既婚者だというただそれだけのことで、こんなにも好きなひとを、私は疑ってばかりいる。

課長とキスをしてから、いくらもたっていないのに、自分のなかに、今までなかった暗い感情が生まれつつあることを、はっきりと感じていた。

窪田さんに言われた言葉が頭のなかで甦る。

なのに、やっぱり私は、課長が欲しい。

「そんなふうに、言ってもらえるなんて、思ってなかった…。」

「課長は…これから私とどうなりたいですか…?」

自分自身でも、わからない、問いを課長に投げ掛けた。

「…難しいこと、聞くね。」

「難しいですか…?」

「河本さんにとっては、難しくない?」

「…課長が答えてくれたら、私も答えます。」

課長はしばらくの間、考え込むように、黙っていた。

「ごめん…やっぱり、簡単には答えられない。

だけど、妻とは、遅かれ早かれ、もう駄目になると思う。

そして、河本さんへの気持ちは、止められそうにない。」

課長の答えを、噛み締めるように、黙って聞いていた。

「河本さんは…?」

課長に尋ねられて、私は答えた。

「私は…課長が、好きです。

課長の全部が、欲しいです。」

その他のことは、もうわからない。

ただ、課長の全部が欲しい。

正直な気持ちはそれだけだった。

私は、まっすぐに課長を見つめた。

次の瞬間、課長からキスされた。

何度も、浴びせかけるような、キス。



店を出て、夜の道を歩きながら、ああ、やっぱり、不倫のみちは、体の関係から始まるのだと、わずかに、冷静な頭の一部で、ぼんやりと考えていた。


これから、課長と、どうなるのだろう?

ただ、課長を信じていたかった。