中学2年夏______



橋谷萌絵side




私は男子が嫌いだ。
汗くさいし、ガシャガシャしてるし、なにより女子をいじってくるのがうざい。
「気軽に話しかけてこないで」と言えれば苦労はしない。しかし、そんな勇気は私には無いのだ。


席替えでくじを引く。
いつメンの彩未(あやみ)とあゆが私の元へ駆け寄ってくる。
「ねーねー、萌絵、何番?!」
彩未が急かして聞く。
「んーとね、16だよ。あ!窓際!やったあ♪」
いちばん前の席から後ろの方の窓際になれたので、私は素直に嬉しかった。
「あたしの後ろだよ、萌絵〜!授業中、話せるね」
あゆが言う。
「うわぁ、あゆうるさいからウチまで怒られるじゃん!」
3人で笑いながら、さりげなく隣の席の名前を見た。
石坂月斗。
読み方、下の名前は「つきと」で合っているのだろうか。
同じクラスになって3ヶ月ほど経つというのに、いまだにクラスメートの名前を覚えられてない自分に少し腹が立った。
まあそんなことはどうでもいい。
なぜなら下の名前で呼ぶ機会など無いのだから。

新しい席に移動し、みんながざわめく。
「ここらへん後ろの方だし、内職できるかな?」
あゆは美術部だ。
絵がすごくうまい。
中1の時から、美術の成績は5をキープしているらしい。
「内職って…また絵かくの?」
「もち!だってさ、先生の話つまんないんだもん。授業わかりにくいし」
「それはあるけどさ、ウチら来年は高校受験なんだよ?中学全部範囲なんだよ!」
自分で高校受験と口には出してみたものの、まだ実感は沸かない。
二つ上の先輩は、高校受験を乗り越え、高校生を今エンジョイしてるのかなぁなんて、考えてみたりもする。
「そりゃそうだけど…」
あゆは口を尖らせながら言った。
「ま、その時になったら考えるわ!じゃあ部活行ってくるねー」
気づいたらそんな時間になっていた。
私は頑張ってねと手を振って見送った。

ふと左に目をやる。
隣の席の石坂くんはもういなかった。