(仮題)アイネクライネ


「え?」


カランカラン、とまた扉が開く音が聞こえた。

「あれ、瑞希ちゃんだったんだ!」

「櫂人(カイト)さん…」



【カフェ金魚】のオーナー兼店長の櫂人さんは、もともと大企業の営業マンをしていたらしく、営業で訪れたこの小さな町に魅せられ、わざわざ会社を辞めてこの町にやって来た。

「ずっとカフェを開きたいっていう夢があったんだ」と言っていた。
長年思い描いてきた夢が叶い、3年前にこの場所にカフェをオープンさせた。

なぜ、【金魚】かというと、「金魚が好き」だからだそうだ。
このカフェに金魚は1匹もいない。



柔らかい物腰の、眼鏡の奥はいつもやさしい目をして笑っている櫂人さんが、いまはとても驚いている。


この、目の前の長身の男の子にーーー


なぜ、わたしの名前を知ってるの?
わたしも、なにがなんだか、わからない。


「とりあえず、中で話をしたら?」
櫂人さんがお店の扉を開けて、手招きしている。

「あ、うん。そうね!」

わたしは思わず、長身の男の子を見た。

彼はゆっくり縦に頷く。
頷いた瞬間に長い前髪から見えた、切れ長のきれいな目。

ーーーあれ。わたし、どこかで見たことある…?