圭介と食事した日、彼の目の前で泣いた事、すごく後悔していた。
店を出て彼と別れる時、彼が待っていてといってくれた事、本当はすごく嬉しかった。
こうして晴れた日の昼下がり。
一人の部屋の中で考えるのは、あの日の彼のこと。
それが今、私の一番の幸せだった。
彼と歩いた東京駅。
学生時代に戻ったようだった。
昔のような軽口も、もう何か月もしていない。
ただ、夫を待つだけの毎日は自分を何処かへ失くしてしまったかのよう。
いつか笑うことも少なくなった自分がいた。
これではいけないと、夫にサインを何度も出した。
しかし自分の仕事に忙しいに彼にとっては、ただの我が儘に映っているのだろう。
何か月に一度行く夫の実家で、姑に釘を刺された。
働いていないんだから、感謝しなさいと。
早く孫の顔が見たいとも言われた。
それ以来、私の心は死んでしまった。
帰りの遅い夫を待ち、寝る時間は不規則になる。
夜眠れない日もしばしば。
夜の生活も、仕事に疲れた夫に拒否られることもあった。
そんな時、大学時代の友人からラインで遊びの誘いがあった。
圭介と同じ会社に勤めている夏だった。
仕事で東京に出てきた彼女とソラマチで遊んだ。
一緒にスカイツリーを見て、ソラマチにあるお店を覗いた。
お昼にはランチを食べた。
夫以外の人と一緒に外出するのは、久しぶりだった。
とても楽しかった。
けれど、大学を出て就職した彼女の話はもっぱら仕事の話だ。
会社の上司だどうだとか、会社のそばにあるお店の話。
ネイルサロンに初めて行って、ネイルを大きいものにしたのでパソコンのキーが
叩きにくかったことなど。
自分知らない世界が羨ましかった。
口では大変という彼女、表情も大変そうだけど瞳はキラキラ輝いている。
そんな彼女は私にとって、とても眩しかった。

