そしてあの夜だ。


 あの桜の下で。


 あの時俺はどうかしていた。
 

 話した内容も本当に些細なこと。


 なのにどうしても自分が止められなくなった。


 彼女を抱きしめることで、あの時の未羽さんを勇気づけたかった。


 どうしようもなく一人ぼっちだった彼女を。



 それが自分の中で思いもよらない反応を起こしてしまった。


 それから俺は二人を少しでも、特に未羽さんを圭介さんに近づけることに努力した。



 自分でもバカだなと思う。

 

自分の中に生まれた気持ちを忘れたかった。


 そうすることが彼女の幸せだと思っていたから。



 その気持ちに偽りがないところが酷く厄介だった。


 こうして本当の気持ちに気づくのがこんなにも遅れてしまった。



 でも今はそんな遠回りが、彼女と俺の絆になっているのを強く感じている。


 今でも例えば、彼女が俺以外の別の人が好きだとしたら、俺は多分彼女をその人の処に


送り出してしまう。


 そんなの絶対に嫌だと分かっている。


 でも、それ以上に彼女には本気で幸せでいてほしいのだ。


 何処かで生きていてくれれば俺はそれだけで十分だった。