まだ明るい街に出ると、ようやくスマホを開く。
忙しすぎて確認する時間なんてなかった。
まだ彼女からの返事はなかった。
とりあえず移動しよう。
昨日彼女と会ったCDショップの近くの本屋に行くことにした。
彼女にそうやってメールを打つ。
歩きながら昨日のことを思いだしていた。
俺が欲しかったCDを作ったバンドの曲が流れるモニターの前で、一人で考えごとをしながら
MVをじっと見つめていた彼女。
気のせいか泣きそうな顔をしていて、俺は思わず声を掛けた。
振り向いた時の驚いた顔が今も忘れられない。
いつも幸せそうに笑っている彼女が見せた、もう一つの横顔。
その時気が付いた。
あの笑顔の為に彼女が隠している様々な感情があることを。
自分のことより、人のことを考えてしまう人なのかもしれない。
いや本当はずっと前から気になっていた。
初めて出逢ったあの日から。
初めて逢った時、惹かれた彼女の笑顔。
いつもの彼女の笑顔が見たくて海へ誘った。
このまま返したくないと思った。
誘ってよかったと思っている。
なんて本当は彼女といると楽しくて、一緒にいたいだけだった。
電車を降りて、駅を出る。
栄の街を歩きながら少しドキドキしてきた。
今日も仕事帰りの人や、学校帰りの学生。これから遊ぼうとしている人達が行き交う。
そんな人達を見ていると不思議な気持ちになってきた。
こんなに人が沢山いるのに、でも会いたいのは彼女ただ一人。
しかも彼女と会うと思うと、こんなにもワクワクしてくるのはなぜなんだろう。
何人もの女性と知り合ったり、付き合ったりしてきたのに、こんな思いになったのは
初めてだった。
何より彼女が、今同じ地球の上に、同じ時代に生きていてくれるのがこんなに嬉しいなんて
知らなかった。
なんて少し大袈裟かな。
でも本当にそう思っている。

