サクラと密月




 名古屋駅から電車に乗り込んだ時から、電話が鳴りっぱなしだった。


 夕方に温泉に着いて、その日は温泉に一緒に入ってゆっくりしてたんだ。


 でもその電話が曲者だった。


 結局次の日の朝早くから、私一人で滑りに行ったんだ。


 仕事があるから無理だって彼が言ったから。



 一人で滑ってると、昼頃には飽きてしまって、彼を驚かせようとコッソリ部屋へ


戻ったんだ。


 静かに部屋のドアを開けて中へと入ると、中から喧嘩をする声がして立ち止まって


 聞き入ってしまった。



 それは、彼と奥さまとの喧嘩だった。



 その時、彼が養子で奥様は取引先の重役のご令嬢だと知った。


 いつもは自信たっぷりの彼が、奥様に必死に言い訳する姿を見て全てを悟った。


 彼もあれからは泊まりのデートはよっぽどでないと誘わなくなったんだ。


 
 それからかな。


部長がやたら新人の男の子を一緒に連れてくるようになったのは。


そして必ず私とその子を二人きりにして自分は先に帰っていく。



なんだか肩たたきにあっているみたいで本当は凄く嫌だ。



 早く私を誰かに押し付けようとしているみたいで、嫌になる。


 実際取引先の人たちに噂されてるのを耳にしたこともある。


 しかも次の日必ず呼び出すのだ。



 枕言葉でそのことを確認してくる。


 はじめは愛されていると激しく燃えたけど、そんな彼を見るのは、今はちょっと辛い。



 一緒に居すぎたのかな。