サクラと密月



シンガポールでの楽しい日々は忘れられない。


 空港で彼と別れるときの辛かったこと。


 あの時は真剣に同棲することも考えた。 



 昼間は彼がホテルから仕事に行き、夕方ホテルに戻ってくる。


 その間私は一人観光をしていた。


 ラッフルズホテルにマーライオン。


 買い物が主な行動範囲。


 ゴミを落とすと罰金だというその町は、どこも綺麗だった。


 綺麗で、少し湿気があって日差しが強いあの日のことは、今も時々思い出す。


 熱帯の植物の生い茂る街で過ごした数日間。



 全てが完璧だった。



 昼間の植物園。蘭の花の美しさ。そして香り。


 夜は二人でディナー。


 ディナーの時、マダムと呼ばれてうれしかった。


 そうやって考えると本気だったのかも。


 でも、結局人の物だということに気が付いたのはいつだっけ。
 
 
 

そうだ、雪の温泉だ。



 飛騨の山奥の温泉。


 スノボがしたかった私が、無理やり誘ったんだ。


 彼はその頃とても忙しかった。