恵介くんは女子社員の憧れだった。
とにかく仕事ができるのだ。
だから本気で口説いてみた。
しかし昨日、あえなく撃沈された。
ちょっとは自信あったのにな。
近頃ずっと冷たかったけど、仕事が忙しかったのは本当だったし、一応そういう関係にも
なってたもんね。
ちょっと部長を脅してきっかけを作り、既成事実作っちゃえば絶対大丈夫だと思っていた。
しかもあの時私は至上一番というくらい本気で口説いていた。
言いながら、ああ私結構恵介くんのこと好きだったんだなって思った。
案外ひたむきなんだと。
なのに、帰ってきた答えがまた信じれないものだった。
目に涙を浮かべ、真剣に話を始めた彼。
その痛々しさに物凄く驚いた。
普段はポーカーフェイスで年配の上司にでも冷静に返事をする彼。
どんな時も冷静だったその彼が、あんな風に一人の女性の為に泣くなんて。
もう勝負はついていた。
私にも会社の誰にも見せたことのない彼を、私のような女に見せることのできる
女性って、一体どんな人だろう。
そして、二人の間には私なんかが入ることのできない、 大切な大切な二人の思い出が
あったんじゃないかと思ったのだ。
出会ったばかりの私なんかじゃ入れない思い出。
その思いに苦しんでいる彼を見ていたら、なんだか私の悩みなんて悲しいかな
どうでも良くなってしまった。
だから私はあの時、最高の強がりで彼の前から走り去った。
なんだかあんなことした自分がたまらなくは恥ずかしかった。

