香織劇場は結局9時過ぎまで続いた。
また、俺は送り狼だ。
あかずきんちゃんよりすごい弱い。
香織が大人しくなった頃を見計らって、店を出た。
店の前でタクシーを待つ。
まだ宵の口なので、俺たち二人を仕事帰りのサラリーマン達が通りすがりにジロジロ見ていく。
俺はもう慣れっこだった。
こんな事、これで何度目だろう。
目の前を車が赤い光を置いて通り過ぎていく。
今日は彼女を車に乗せたら、とっとと退散するつもりだった。
所がタクシーなんてなかなか来ない。
酔いつぶれたと思った香織が急に話出した。
「恵介くん、私と結婚しよう。」
俺は耳を疑った。笑って、
「香織さん、すごく酔ってますよ。」と言った。
「やめてください。」
これは本心だ。
すると彼女は背筋をピンとのばした。
そしてしゃんと立つと俺を見上げた。
「本気よ、本気。」
彼女の瞳を覗き込む。
ネオンの光りが瞳を輝かせていた。
本気なのだと分かった。
そして腕を強く掴んだ。
いつもと違う痛々しい彼女がそこにいた。
「もう沢山、私普通の幸せが欲しい。」

