「お呼びでしょうか」



メガネをしてペンを持ち、書類に目を通しながら書き込んでいた部長は、俺が机の前に来ると



手を休め眼鏡を取った。



「横浜の会社との取引を降りてもらうことになった。君には今の仕事に専念してもらいたい。



話はそれだけた。下がっていいよ。」



それだけ言うとまた眼鏡をかけて仕事を始めた。



俺は何が起きているのか分からなかった。



とりあえず部屋を後にした。


デスクに戻って横浜の会社に電話を入れた。


先日一緒に食事をした営業さんだ。


「聞きましたよ。せっかくお知り合いになれたのに残念です。また食事行きましょう!


絶対いきますから。」



有難うと挨拶すると電話を置いた。


今までこんなことがなかったので、少しおかしく疑ったがそれ以上なにも


聞きだせなかった。



思い過ごしか。



とりあえずやりかけた仕事を続けることにした。


夢中で仕事をしていると時間はあっと言う間に過ぎていき、いつの間にか定時を


二時間ほど過ぎていた。


今日しようとしていた仕事が大体片付いたので、少し休憩を取るため休憩室にいった。



定時を過ぎているので、部屋は閑散としていた。



自販機でいつもの紙コップのコーヒーを買った。


長椅子に座ってコーヒーを飲んだ。


目の前には窓があって、秋の夕日に染まる名古屋の街が見えた。


3時頃から何も飲んでないので一口飲むと渇いた喉に沁みていくのを感じた。


残業時間ののんびりと、でも寂しい休憩室の中でボンヤリ何も考えずただ目の前にある


名古屋の景色をを見つめる。


ただ見つめているだけなのに、蘭のことをまた思い出していた。