まだ幼かった俺は、彼女が結婚したことに対して感情を抱いていないつもりだった。


だけど本当はそれは強がりだったのだと思う。


彼女が俺に弱みを見せれなかったのと同じで、俺も彼女にそんな感情を持つなんて


できなかった。


彼女に負けた気がしたからだ。


今頃になってあの日封印していた痛みが俺の心をつついて涙を溢れさせる。



駄目だな、酔ってるわ。


相当悪酔いだ。


でも、此処なら大丈夫か。


自分の部屋だ。


今夜はとことん自分の気持ちと一緒にいたい。


今なら何故未羽に惹かれたかわかる。


あの頃の彼女にとても笑い方が似ていたのだ。


蘭がもっと大人しくて、しとやかなら正しく未羽だ。



俺は未羽に蘭の理想を求めていたのだ。



でも、今は違う。


ああなんて勝手なんだろう。


そして、なんて幼稚だったのだろう。


だから未羽に会えなかったのだ。


勝手な俺が、あの未羽にしてしまった事を考えると、彼女に合わせる顔などなかったのだ。


俺は彼女に甘えていたのだ。



降りしきる雨の中、俺は一人部屋の中でただ過去を見つめ続けた。


自分がそうしたかった。


それが幸せだった。


なによりのその時の幸せだった。


他に欲しいものなんて何もなかった。



あの頃の君と。


あの頃の僕と。