サクラと密月



しばらくすると愛果が戻ってきた。


「ごめん、お待たせ。お風呂入ろう。用意してくる。」


そう言ってバスタブの用意に行った。


お風呂の用意ができるまで二人で話をする。


「ハルくん、明日も東京なんだ。」と私。


「東京の方が、演奏できるところ多いんだって。月に何度か行ってるんだ。」


愛果も仕事が忙しそうだ、あんまり会えないって、こういうことだったんだ。


「彼の夢を邪魔したくないから、つい我慢しちゃうんだけど今みたいな時はつらいかな。」


例の上司の事だよね、愛果が言ってるの。


愛果も甘え上手なのか下手なのか。


姉御キャラだもんね。


そんな彼女の気持ちまで、ハルくんはわかってるのかな。


愛果に甘えっぱなの私は、愛果にはできれば幸せになって欲しいと思う。


「愛果は昔から姉御キャラだもんね、そんな所が愛果にいい所だけど、無理してない。」


愛果は考えこむ。


「私、ハルの演奏がすごく好きなんだ。できれは沢山の人に聴いてほしい。」


愛果が入れてくれた、温かいココアを二人で飲んだ。


二人の間に、コップからの湯気がユラユラ揺れた。


「ハルは本当にサックスが大好きで、そんな彼が好きなんだよね。」


「私にはそういうのないから、彼が羨ましくて。」


なんとなくわかる。


ハルくん姿も格好いいけど、信念を持ってる。


年下なのに、愛果をたしなめた時思った。


誰かに何かを忠告する時、その人がいい加減な人なら、誰も聞いたりしない。


愛果をたしなめる人ってあんまり見ない。


そういう意味でも、私は愛果に何かを言うことはできない。


だた、愛果の話を聞いていた。



「蘭こそ、今度は好きなことやってみなよ。せっかくのチャンスなんだし。」


そうだよね、自分のことすっかり忘れていた。


それぐらい、今日のことは新鮮だった。



ハルくんやお店のこと。



世の中、確かにまだまだ面白いこといっぱいありそうだ。



人生楽しまなくちゃ。



お風呂の準備ができたとお風呂が呼んだ。


私はお風呂を借りた。


湯船につかるとアルコールの香りが消されていくようで嬉しい。



今日は今まで溜めていた自分の気持ちを話すことが出来てすっきりした。



私も愛果も学生の時とは違うんだと思う。


でもそれも悪くないと思えた。