そんなことも思い出した。
「でも、サックス演奏するところってあんまりなくて、ここでバイトしながらたまに
演奏させてもらってるんだって。」
やがてお酒が運ばれてきて、お店の照明が暗くなった。
舞台にライトが当たって、横からハルが出てきた。
舞台の真ん中で立ち止まり、前を向くとお辞儀をした。
ピアノの前に眼鏡をかけた年配の男性が座った。
彼の方にむいて合図をすると、ピアノの演奏が始まった。
確かにとても上手だった。
みんな静かにハルの演奏を聴いていた。
ジャズなのかな、生演奏初めてだけどすごくいい。
さっきまで気が付かなかったけど、後ろが騒がしかった。
ハル目当ての女の子が興奮して話ている。
モテるんだ。
確かにルックスも悪くない。
なにより演奏する姿がセクシーだ。
楽しい時間はアッという間に過ぎた。
照明がついて現実が戻ってきた感じだ。
私は溜息をついて、愛果と目をあわせた。
なんとなく笑顔になった。
「ハルはサックスが好きなんだよね。」
そう愛果が言った。
「今は働きながら演奏してるけど、いつかはって思ってる。」
「なんかそういうの羨ましくって。」
確かに。そんな気持ち、毎日の生活に精一杯で、すっかり忘れているかも。
「応援してあげたくなっちゃて、応援してたんだ。」
「蘭もそういうの学生の時なかったっけ。」
あった。
でも、結婚して忘れてた。
「夢って忘れたら駄目だよ、私もそうだった。ハルが思い出さしてくれたんだ。」
私の夢は保母さんだったな。
その為に大学にも入ったんだ。
お酒がなくなった頃、ハルが席にやってきた。
「バイト終わった、帰ろうか。」
そう言って愛果の横に座った。
「演奏素敵でした、上手ですね。」
と、話かけた。
彼は嬉しそうに笑った。

