サクラと密月




家に着き、誰もいない部屋で思い切り泣いた。


辺りが暗くなっても夫は帰って来ない。


でも、それに救われた。



窓の外を車の光が流れていく。


建物ばかりの景色はいつも同じだ。



春も夏も秋も冬も。

暮らし易いけど、なんだかひどく退屈だ。



カーテンを閉める。


白い壁が目の前に広がる。




私は圭介にメールを書いた。


感謝の気持ちを伝えたかった。


しかし、何度書いても思う通りに書けなかった。


自分の気持ちばかりが出てしまう。




あなたを思う本当の気持ち。




でも、それは絶対に言えない言葉だった。



今の自分がそう言って、どこに信憑性があるのだろう。


誰かのものである自分が、今こそ心底嫌いになった。


この気持ちだけは、誰にも何にも汚されたくなかった。


たとえ自分でも。


そう、自分だけは絶対したくなかった。



そんな時に限って、見つけたくないものを見つけてしまう。



夫の携帯電話の中身だ。


近頃スマホのゲームに夢中の夫。


家に帰ってきても、椅子に座ってスマホを触っている。


始めは嫌がってそう言ったのだけど、止める気配はなく諦めた。


姑にもうるさく言わないように諭されてから、馬鹿らしくなって止めた。


そのゲームのメモを、書いては何処かへ置いておく。


いつもは隠すのに、その日は置きっぱなしになっていた。


見る気はなかった。



それは何人かの女性の連絡先だった。


頭が真っ白になった。


メモには最後に「ムフッ」の言葉と顔文字。



馬鹿らしくて呆れて笑いがこみ上げてきた。




次の日、夫が会社に出掛けると圭介にメールを書いた。


何かが吹っ切れて、素直に書けたと思う。




返事が来るか分からなかった。


でも、自分の気持ちを伝えられればそれで十分だった。