「別に、何もないよ?」
蒼くんが心配して訊いてくれているのに、それでも私は隠し続ける。
嘘をついているんじゃない。
言わないだけ。
そう自分に言い聞かせるのに、隠していることがこんなにも苦しいなんて。
「詩音………お前、隠してることバレバレだよ。なに隠してんのか知らねぇけどさ。ひとりで悩むなよ」
不意に、蒼くんの言葉が浮かぶ。
“おれ、夏休みに入ったらバスケの大会で忙しくなるからさ。今のうちに出掛けとこうぜ”
そうだった。
蒼くんはこれから忙しくなるのに、私が病気だ、とか言ったら心配してバスケが手につかなくなっちゃうと思う。
自分が損をしてでも人のことを考えられるような、お人好しな人だから。


